563:もう一人の変わり者
「……事情はわかりました。デトル君も、無理な勧誘活動はいけませんよ」
「はい、わかりました!」
必死の弁明によって、なんとか疑惑は晴れた。といっても話している間に近くにいた生徒はほとんどいなくなってしまったから、結局生徒の間での悪評は変わっていない気もするが。
もう生徒も近くにいない。誰もこの様子を見ていないし、声の大きいデトルが近いうち弁明してくれることを願うしかないか。
いや、微妙な視線を感じる。どこかから盗み見られているような……。
「……!」
辺りを見回して気付いた。屋根だ。屋根の上に少女が立っている。随分制服を着崩してはいるが、そのデザインは王都校の戦術科のものだ。
少女も俺に見つかったのに気付いたのか、俺の視線が届かないところまで移動してしまう。驚かせてしまっただろうか。焦って落ちていないといいのだが。
「どうかされましたか?」
「あ、いえ。何でも」
「しかし、信任の先生が研究室を立ち上げるのはなかなか難しいですからね。レイ先生も頑張ってくださいね」
とりあえず校長からはやる気があると評価してもらったようで助かった。まあこのままなら上手くはいかないだろうし、適当に協力しつつ放置すれば大丈夫だろう。
「やり過ぎはいけない、かぁ……。先生、張り紙でもしましょうか?」
「いや、やめてくれ……」
偏見ではあるが、どうにも良い張り紙を俺たちで作れるとは思わない。直情的なのはいいとして、あの勧誘の様子を見る限り俺の評判が落ちるだけだろう。どうしたものだろうか。
とりあえず門までデトルを見送ると、ため息を吐く。慕ってくれるのは嬉しいが、ここまで本気になられると困ってしまう。過大評価も重荷だ。
少なくとも、一人の生徒には教師としてあるべき実力があるとわかってもらえたことだけは喜ぶべきだろうか。まだまだ先は長い、気が重くなってくる。
「何かお困りですか?」
急な声に振り向くと、びしっと制服を着込んだ男子生徒が。どこかで見覚えがあるような感じだ。会ったことなどあっただろうか。
「い、いや。少し考え事をしていただけだ。ありがとうな」
思い出した。俺が挨拶をした式典で、新入生の代表として話をしていた生徒だ。なんでも過去最高クラスの成績で入学した秀才だとかなんとか。そういえば生徒が色々と話をしていた気もする。
それ以上に、何か見覚えのある気がするが気のせいだろう。きっと何度か見かけたのを無意識に思い出しているだけだ。
「特に御用がなければ、少しお話させていただきたいのですが。よろしいでしょうか?」
飯を買いに行きたかったが、少しの用なら良いだろう。冷静なこの感じ、デトルとの温度差で感覚が狂ってしまいそうだ。一般的な生徒の様子を見る限り、この彼はかなり落ち着きのある方なのだろう。
「先程、先生が研究室のメンバーを募集していると伺いまして」
「ああ、あれはちょっと生徒が暴走してな……」
さすがは優等生。もしや俺を咎めにきたのだろうか。さすがだ。話をまともに聞いてくれればいいが。上手く説明できるだろうか。
「私も、レイ先生の研究室に所属させていただきたいのです」
「はは、あれは俺が無理強いしたわけじゃなくてな。……いや、今なんと?」
「ですから、先生の研究室に……」
まさか、1日で俺の研究室に入りたいという生徒が二人も現れるとは。珍しいこともあるものだ。というか、この生徒は俺のことをほとんど知らないはずだ。なぜ急に研究室など入ろうと思ったのだろうか。
「祖父に勧められましたので」
「祖父……?」
なぜ急に俺の研究室に入ろうと思ったのか。その答えは簡単なものだった。しかし、俺の研究室を勧めるような人物がいただろうか。もしかしたらオルダーかキャスあたりが教えてくれたのかもしれない。
「ご存知ありませんか? 私の祖父、ラインハルト・フェイ・モーデストを」
「あ……」
いた。つい最近俺が教師に赴任したことを知っていて、なおかつ俺を気に入ったと言ってくれた人物が。まさか同じ歳に孫が入学するとは。というかそんなことがあるならば教えてくれればよかったのに。
「自己紹介が遅れました。私、オルフォーズ・フォン・モーデストと申します。ぜひ、レイ先生のご指導を頂戴したいと考えております」
次回、564:祖父と専属顧問 お楽しみに!




