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559:赴任の日

「あまり緊張はされていないようですね」


「まあ、そうだ……ですね」


 軽く伸びをすると、校長がくれた制服に袖を通す。教員にもそれを示す服があるようで、着る必要があるらしい。よく見れば校長も着込んでいる。俺のものとは少しデザインが違うようだ。


「やっぱり校長の服は特別なんですか?」


「ん? ……ああ、我が校は生徒教師共に、原型を留めていれば自分に合うよう制服に手を加えることが許されているんです。レイ先生も、何か考えているのならばいい仕立て屋を紹介しますよ」


 もうキャスにも頼みにくいし、確かにそれはアリかもしれない。この服で本来の仕事をするわけではないが、護身のための道具を仕込みにくい構造は困る。


 とりあえずはこれでいいだろう。まだしばらく授業は始まらない。校長が挨拶のために生徒の前へと進み出てから、ネクタイを締め直す。


「皆さん、前年度は動乱の影響で学校の一時閉鎖という措置を取ったこと、改めてお詫びします。今年は新設授業も含めより良い学びを提供していきますから、ぜひ自分だけの道を見つけていってくださいね。新設授業といえば、今年は新しい先生が赴任しました。ご紹介しましょう」


 そう言うと、校長は俺の方をちらりと見る。出てこいということだろう。一歩、進み出る。今までにも何度か浴びた過度な注目が俺に突き刺さる。


 ファルスで一度少女の異形を撃退した時、キャスの戴冠式に同席した時、あれはかなり目立った。今回は人数はそれほどではないが、興味が俺一点に向いている。


 期待だけではない。懐疑、侮蔑、俺を見定めるような視線も感じる。視線だけでない。俺が刀を持っていること、眼帯、魔術師には少ない特徴を話し合うような生徒もいる。居心地は非常に悪い。さっさと済ませてしまおう。


「仮設『戦闘術』の担当、レイ……レイ・ベルナールだ。不慣れな部分もあるだろうが、よろしく」


 退いてくれた校長の代わりに壇の中央に立ち、一言告げる。話は上手い方ではないし、これで十分だろう。自己紹介としての体裁は整っているはずだ。


「レイ先生は軍出身です、最近まで現役で活躍されていた方なので、学べることも多いと思います。ぜひお話を聞いてみてくださいね」


 余計な仕事を増やされてしまった。だが、生徒たちが俺に少しでも親近感を持ってくれるようにという計らいだろう。面倒だが感謝しておくか。


 生徒たちは気になる部分もあったようだが、俺の出番はここまでだ。一人一人に応対するならともかく、この大勢の前で話し続けるのは少し疲れる。軽く頭を下げて壇上から去る。特に他の教員からの品定めするような視線が痛かった。


「お疲れ様です〜」


「あ、どうも」


 引っ込んだ俺に話しかけてきたのは不思議な形の眼鏡をかけた女性。上に大きな白衣を着ているせいでわからなかったが、どうやら中の制服的に教員らしい。歳はキャスより少し上くらいか。


「若い先生は珍しいんで、嬉しいんですよ〜。仲良くしてくださいね」


 といった割には俺への興味は薄そうだ。なにやら跳ねた髪を撫でながらメモを眺めている。どこかミトラにも似た感じだ。


「なああんた……じゃない先生、お名前は?」


「あたしはドロシー、ドロシー・サナーシュ。レイ先生よりはここも長いし、困ったら頼ってくれていいですよ」


 やる気はなさそうだが、親切にしてくれるのは助かる。俺も困ったら助けてもらおう。ありがたいことに敵意も興味もほとんど感じないし。


 とりあえず、今日の仕事は終わりだ。明日以降のためにも、俺用に割り当てられた部屋を整備しておくとするか。

次回、560:研究室と訪問者 お楽しみに!

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