558:模擬授業
「これは、どういう集まりなんすか?」
「ちょっとな。俺の練習に付き合ってもらうと思って」
俺の前には椅子に座ったカイルとハイネとリリィがお行儀よく並んでいる。少し声をかけて、時間のある時に集まってもらったのだ。
今回彼らを呼んだのは、カイルに言った通り練習のためだ。一応ファルスに指導に行ったものの、教えることに関しては俺は素人だ。まずは身近な人で試してみようということだ。
オルダーや校長と相談をした結果、当初の想定にかなり近い、生徒の模擬戦を観察し、改善指導を行うというのが『戦闘術』の基本の流れとなった。どうやら学校側で毎年始めにそれぞれの授業がどのようなものなのか開示する必要があるらしい。
本当は実際にやってみてから決めたいのだが、確かに授業を選択する時には重要な基準にもなる。なかなか適当にはできない。俺だって飯を頼んだのに気分で武器を渡されても困ってしまう。
「リリィ、カイル、とりあえず戦ってみてくれ。怪我には気をつけてな」
授業のために、ということでオルダーが特別に許可を取って王国軍の訓練施設を使わせてもらえることになった。大小さまざまな遮蔽物や足場が用意された空間、逆に非常に開けた部分もある。
「じゃあ、始めてくれ」
戦闘が始まると、すぐにリリィもカイルも遮蔽物に隠れ、相手の様子を伺う。お互い至近距離での戦闘は苦手とする、中距離で力を発揮するタイプの魔術師だ。それほど変わった動きではない。
隙を伺いリリィが顔を出したところで、カイルはそこを正確に撃ち抜く。今回は、カイルには殺傷性の限りなく低い魔導銃を渡してある。これなら彼も遠慮なく撃てるだろう。
リリィも咄嗟に回避に成功したが、流れとしてはカイルが優勢だ。しかし、リリィにあそこまで俊敏な動きができるとは思っていなかった。
カイルを攻撃しようと前に躍り出るリリィを抑え続け、最終的にカイルがリリィに一撃加えたことで対戦は終わった。
「すごかったですね。さて、レイさん講評をどうぞ」
ニコニコしながらハイネが話を促してくる。何を言ったものだろうか。これから二人が成長できそうなこと。
「まず、リリィ」
リリィの姿勢が少し強張る。そんなに怖いだろうか。別に脅したつもりはなかったのだが。
「弱点の機動性を克服したのはわかってたが、空中機動だけでなく、回避行動にまでそれが反映できているのは驚いた。だがカイルに対して強く前進できなかったのは痛かったな。隠れれば銃は防げるが、カイルの『視線』は防げない」
「む……確かに」
再び座ったリリィは俺に言われたことを細かく紙に書いている。少し見てみれば、少しぎこちない部分もあるがかなりうまく書けるようになっている。変に癖のついてしまった俺よりも綺麗かもしれない。
「で、そうだな。カイルは全体的に自分が有利な状況を譲らなかったのは流石だ。だが少々待ちの姿勢が強いのは考えものだな。狙撃の時の癖かもしれないが、攻めの姿勢を見せることで開ける道もあるはずだ」
「無意識でした。気をつけるっす」
さて、これくらいだろうか。今回は冷静に見る側に回れたし、ファルスの時の【影】のように色々伝えられたと思うのだが。どうだっただろうかとハイネを見ると、微妙な顔をしていた。悪くはないが良くはない、なんとも言い難いといったところだろうか。
「気になるところがあるなら言ってくれよ」
「……いえ、私もよくわかってなくて。ほら、100点じゃないのはわかるけど自分も100点は取れないってことあるじゃないですか……」
「ああ、なるほど……」
それは非常によくわかる。というか俺もそうだ。カイルとリリィが決して完全ではないということはわかるが、どうすればそれが完全になるのかはわからない。
俺もいい教師とは言い難いが、何も言えずに終わるということはないだろう。なんとか、やっていけるかもしれない。
次回、559:赴任の日 お楽しみに!




