554:学年末試験
「先生、来てくださってありがとうございます」
「これは……また演習か?」
連れてこられたのは再び擬似市街。他の委員からこの前の結果では信用できないと連絡でも来たのだろうか。俺にできるのは戦うことくらい。いくらでもやってやるが。
「今日は先生に見てもらいたいものがありまして」
オルダーに続いて街を歩く。人の生活の痕跡が無いから少し味気ないが、やはりよくできている。いくつか防護魔術を軽く貫通して残った傷もある。今の王都の姿のようだ。
連れてこられたのはその中心部、円形の巨大な建物だ。中からは何やら声が聞こえる。既に人がいるのか。
門をくぐり、暗い廊下を進み、見えてきたのは広場とそこに並ぶ数人の、揃った服を着た集団だった。
そのうちの二人が魔術戦をしている。なるほど。これは市街戦ではない、単純な対面での魔術戦闘尾技術を競い合う場ということか。
「今年度は王都での争乱の影響で基本的に王立学校は活動を停止しています。ですが特例で卒業を認められた生徒にのみ、学年末試験の受験が認められているんです」
それで、この人数での魔術戦か。動きはどうにも素人臭いし、制服も軍で見たことのあるものとは違う。何者だろうとは思っていたが。
「特例が認められるくらいですから、かなり優秀な生徒たちです。その彼らが先生から見てどの程度の実力なのか、実際に見ていただきたいのです」
なるほど、やっと呼ばれた理由がわかってきた。つまりは今の学生に必要な要素を割り出せ、ということか。といっても、足りない部分などありすぎて困るくらいだが。
魔術の精度、威力や起動までの速度に関していえば、さすが優秀な学生といったところだろうか、一般的な兵士と遜色はない。そこに関してだけは。
だが、動きに関してはほとんど素人と変わらない。回避行動も甘く、距離の取り方も適当だ。それぞれ自分の得意な魔術があるだろうに、その得意を押し付けに行かない。
「こいつら、学校で勉強してるのは何年だ?」
「一般的には2,3年ですね。彼らもそうでしょう」
その中で身につけられるだけの技能。オルダーが俺のことを評価してくれるのは嬉しいことだが、その一方で俺の技術と勘は長年の戦闘によって身につけられたもの。簡単に教えられるものではない。
俺たちと同じような強さをたったの3年で得ることは難しい。基本だけ、と言っていたしオルダーもそれは理解しているだろう。しかし、ではどうすれば良いのだろう。何を教えれば。
不足しているものを指摘するのは簡単だが、その反面彼らでも得られるものを提示することは難しい。どうしたら、彼らはオルダーの求めるような魔術師になれるのだろう。
そもそも、魔術師と戦ったことはあれど、魔術師として戦ったことはないのだ。魔術師として必要なものはなかなかわからない。それこそアーツやらに頼んだら良い気もするが。
ふと、一つの考えが頭をよぎる。もしも、魔術抜きで魔術師を倒せるほどに強くなれれば。そこに魔術という要素を上乗せできるのであれば十分な強さが得られるのではないだろうか。
「……いや、ダメか」
なんとなく、ティオの姿が頭に思い浮かんで提案するのをやめた。彼女が悪いわけではないが、軍の全員がああなってはバランスが悪い。全員がそうなるとは限らないが。
「やはり、難しいでしょうか」
「数年の、それも訓練で得られる力なんて高が知れてる。圧倒的な成長をもたらすのは、結局実戦だ」
俺もそうだ。力と手段を選ばない戦い方で生きてきた十数年よりも、特務分室で戦った少しの時間の方が成長できた。強くなれた。
「つまり、戦いの中で学べと?」
「学校なら、それを見て適当に指導できるやつもいるだろ。特に技術やら思考の面で改善してやれるなら、少しは変わるはずだ」
大きく息を吐き、立ち上がる。これ以上俺に言えることはない。そんな俺に、オルダーはどこか意地悪に笑う。
「彼ら、何人までなら一度に相手できます?」
「……当然、全員だ」
次回、555:ある提案 お楽しみに!




