541:殲滅の攻勢
必死に身体を繋げようと魔力を伸ばす異形。その魔力を刀で切り裂いて再生を阻止する。あまり細かく刻んでもこの作業が面倒になるだけだし、自由に動けない程度のサイズで十分だ。
あとは他の皆を信じるだけ。今万全に戦える面々だけでも、きっと倒せるはずだ。
「あの異形は俺に任せてくれ。放ってはおけん」
静かに【滅】が睨みつけているのはローブの異形。彼が奴にこだわる理由、それはおそらく中に入っている因子、天使の因子だろう。
彼の遠い祖先、地神は天使に殺された。それに対する復讐心があるのは既にわかっている。天使の因子を持つ奴を倒すことで、擬似的にそれを果たしてやろうということだろう。
しかし、復讐心に任せた戦いは大抵気持ちが先行してしまって身体が追いつかない。彼の自制心は現在は元に戻っているだろうが、どれほどまでにその怒りの炎を押さえつけられるだろうか。
「天使の殺し方ならば、我々が一番知っている」
周囲にばら撒かれた羽、その全てを【滅】の拳の風圧で吹き飛ばす。羽は立体的に配置されたうえ、動き回る地雷のようなものだ。リリィの髪も風に煽られ暴れ回っている。顔もほとんど覆われてしまい、頭が白い毛玉か何かのようになっている。
「これが帝国の……ッ!」
レオが力強く笑う。原理は違うが、互いにその拳を武器に戦う魔術師だ。この凄まじい威力には思うところがあるのだろう。
風に煽られて視界が遮られたメンバー、以外の魔術師が剣の異形を鋭く攻撃する。ベルフォードが重力でその俊敏な動きを押さえつけ、リーンとハイネがその身体を削っている。
剣の異形が纏っている斬撃の嵐は、飛来する魔術すらも迎撃する。しかしハイネとリーンは違う。身体の内部から、そして大地から、直接相手を傷つける。奇しくもこの二人に、殺戮に限りなく向いた術式が宿っているのだ。
鎧の因子を取り込んでいるのか身体は硬そうだが、明らかに損傷している。倒れるのも時間の問題だろう。
厄介な流体の異形も、【静】の聖遺物の神話顕現とアーツの鎖でどうにか手数的には抑えられている。あとは沈黙させる方法を見つけるだけだ。
「嵐、と言ったな」
静かに進み出てきたのはイッカ。なにやら考えがありそうだ。イッカは腰の細剣を抜くと、剣の異形に向かって迷いのある、しかし確かな自信を備えた歩調で近づいていく。
「曰く、嵐は空を覆う。だが、その厚い雲に増す陽光があれば話も違うだろう」
なるほど、そういうことか。イッカの細剣の輝きと共に、剣の異形の放つ気のようなものが薄れる。錯覚ではない。太陽が嵐を粉砕したのだ。
イッカの聖遺物【神聖の光剣】は、かつて聖地と呼ばれた地に注ぐ陽光を、形ある刃にまで鍛え上げた至高の一品だ。その等身には、実際の陽光の力が凝縮されて宿っている。ただ嵐の因子では、抵抗することすら叶わない。
今まで入れなかった領域に、イッカが踏み込む。身を以て自分の力を証明した、ということだろう。刃の嵐はすっかり止み、清冽な陽の光だけが降り注いでいた。
しかし、刃の嵐の中は同時に異形の射程の中でもある。斬撃の嵐ではない直接の攻撃がイッカに降り注ぐ。
軽やかで爽やかな金属音。異形の剣は宙を舞い、定規で線を引いたような一閃が、異形の左腕を音もなく落としていた。
【影】が細剣の強い輝きによってできたイッカの影を利用して現れたのだ。短距離の移動であれば、ほとんどリスクがないようにも見える。
「助けを求めた覚えはないが、感謝しよう」
「失礼、功を急ぎました」
あとはやらせてやる、とでも言うように笑う【影】。だが彼に悪意があるわけではない。善意がここまでキザに見えるのも一種の才能な気がしてきた。
その笑顔に応えるかのごとく、シャルが魔力の銃弾を撃ち込む。武器を失った上衝撃で体勢まで崩され、もはや死を待つのみ、というほかないだろう。
次回、542:殲滅の攻勢2 お楽しみに!




