540:炎舞
「厄介だな……!」
異形は右手から魔力を放出しながら、光る粒子のようなものをその魔力に入れる。これが因子というやつか。
魔力はたちまち剣の異形が持っていたものと似た剣に変化し、俺に似た姿の異形の手に握られる。剣の因子を混ぜた魔力、おそらく名剣の類ではないだろうが、身体と違って簡単に叩き斬ることはできなくなった。
俺に魔術は効かないという経験からの行動だろうが、これはチャンスでもある。
ズブの素人がいきなり剣を握る。それが意味するのは剣への固執だ。頼りになる武器を手にしてしまえば、それにばかり意識が集中する。剣を使って俺に対処することばかりを気にするようになり、その動きは今まで以上に精彩を欠く。
魔術を手にした凡庸な魔術師が、それ以外の研鑽を怠り背中を刺されるのと同じ。あらゆるものを使って戦うだけの貪欲な殺意がなければ勝利は掴めない。
俺の得意の土俵に自分から上がってきてくれた。外見と力ばかり俺に似せた贋作には、絶対に負けない。
だが、余裕ができたついでに少しだけ情報収集もしておくか。俺でもできるってところを見せてやる。
「俺の因子なんてモン、いつの間に取りやがった。俺の活躍が羨ましかったか?」
「間違いではない。『こちら側』に来た時に少し頂いた」
やはりあの時か。抽象的な因子を利用した異形が多い中、こいつだけは俺という具体的な因子を使っていた。だが、そうなれば気になることが一つある。あの場には、俺よりも因子を奪うべき相手がいたはずだ。
「俺より強い女がいたろ。なぜあいつの因子を使わなかった」
史上最強。神すら超えた存在であるヴィアージュの因子を取れば戦況はもっと有利に働いていたはずだ。
「お前より先に取った。だが、使い物にならなかった」
活躍を見れば順当か。しかし、ヴィアージュの因子が使い物にならなかったというのは引っかかる。彼女の強さの一つ、卓越した剣技は使うことができないとはいえ、他の要素、持っている素質なども優れているはずだ。俺の力と同じように、真似できない力というのもあるのだろうか。
とりあえず、聞きたいことは全て聞けた。これでもう用済みだ。
「身体補強・天火」
再び、熱く燃える身体。奴が速度と力で無理矢理押してくるというのなら、俺も同等の力で対抗するまで。幸い、俺にはそれができる。一度は不意打ちで腕を折られたが、今度は油断も迷いもない。
同等、いや完全に同じ身体能力を持つもの同士がぶつかり合うのならば、必然的にそれ以外の要素で勝敗は決する。
体内に火が蔓延しているかのごとく熱い。一方で身体は驚くほどによく動く。熱を纏いながら舞うように切り結ぶ俺は、延々と燃料を焚べられて、際限なく燃え上がる炎のようだ。お前にこの感覚はわからないだろう。
打ち付けるような雑なガードを弾き、鋭い蹴りを腹に一撃。内部へのダメージなどほとんどないだろうが、抉るように打ち込んだから体勢は保てまい。
ぐらついた体を、さらに脚を斬ることで再起不能のものにする。剣での抵抗もさせない。剣を握ってしまうとこうも行動が単純化されるものなのか。右腕を細かくバラして落とすと、首を斬る。
魔導機関の異形と同じく、未だ消滅はしていない。どうしたら完全に消えてくれるのだろう。とりあえず俺はこいつを再生させないことに集中しよう。
次回、541:殲滅の攻勢 お楽しみに!




