538:模倣の異形
「ああん? つまり奴はレイの猿真似をしておるだけということか?」
「ひえ、そ、そうです……!」
素で少々高圧的な【破】に、ルヴィスは完全に萎縮してしまっている。苦手だろうにシャルと【破】に囲まれて青い顔をしている様子は少し面白い。
「お嬢ちゃん、さっきは随分出力が高かったねぇ。何か秘密でもあるのかな?」
「な、なんだお主は!?」
そんな【破】も、どうやらミトラのようなタイプは苦手らしい。微妙に【縛】に似たところもあるし、微妙に恐ろしいのだろう。
とにかく、奴らの正体がわかったことは僥倖だ。親衛隊も来てくれたが、これ以上の有力な加勢は見込めない。今度こそ最後の戦いになる。
まずは負傷者を撤退させなければ。セリとカノン、そして立ってはいるがシャーロットもそろそろ厳しいだろう。明らかに負傷箇所、羽に触れた部分を庇いながら戦っている。
「君たち、これ以上無理をすることはない。一旦下がるんだ」
「し、しかし……」
「問題ない。我らが必ず勝つ」
見かねた【滅】と【破】がセリとカノンに撤退を促す。二人とも不本意ではあるようだが、同時に愚かではない。自分達が戦場に残り続けることで得られる利があまりにも薄いことは理解しているだろう。
「撤退支援は任せてください……!」
消耗気味ではあるが、適当な異形だけならハイドに任せても問題ないだろう。まだやれると抵抗するシャーロットをリーンと一緒に引きずっていき、ハイドに預ける。臆病だと思っていたが、こういう時には気合の入った目をするのか。少し感心した。
「ぼ、僕たちも手伝います!」
「ほい、今痛みが和らぐ術をかけるからねぇ〜」
戦闘に秀でた者と比べると少し劣るが、それでもミトラとルヴィスがついてくれるなら安心だ。俺たちもこちらに集中できる。
「オマケの祝福だよ、大事に使ってね〜」
ミトラが杖を振り上げると、黒い雨の中に虹色の粒が混じり始める。俺は消してしまうから恩恵を感じることはできないが、虹色の雨一粒一粒に途轍もないエネルギーが込められているのがわかる。
「この感覚、久しぶりだなッ!」
「まったく、どうにも術があの女に似てきたな……」
レオとオラージュが進み出る。俺の消耗を抜きにしても、この状態のレオに、ましてオラージュに勝つことは難しそうだ。
そのままオラージュは素早く飛び上がると、魔導機関の異形の上に着地する。
「祓雷」
足元から発生した雷が異形を覆い尽くす。蒼く輝く雷は、その輝きとあらゆるものをやk尽くす熱量で異形を苦しめる。
しかし、それでも異形は健在だった。異形の頭から飛び降りたオラージュは、少し不機嫌そうにビリビリと雷を放出する。
「『人体』じゃないから効きが悪いな……。切り替えていくか」
そうか。驚異的な威力を誇るオラージュの魔法は、真の雷があらゆる守りを無視して体内を直接破壊するからこそ強い。しかし体内という概念がない彼らにとっては、オラージュの一撃を受けようと見かけ以上の損傷はないのだ。
相性的には不利な相手。しかしオラージュが怯んでいる様子はない。むしろ策があるといった様子だ。実際、神代を駆け抜けた彼女がそう簡単に折れるわけがない。
「ふふ、長い間に『対人戦』に慣れちゃったのかしら?」
「そう……かもな」
「あらあら、丸くなっちゃって」
オラージュは全身に纏っていた魔力を足に集中させる。一瞬、オラージュの脚の一部が雷そのものに変化したように見えたのは気のせいだろうか。
そして、眼前からオラージュが消える。だが、魔力とその鋭い殺気の動きで方向は追うことができる。場所は再び魔導機関の頭上。リベンジということか。
オラージュはその長い脚を振り上げ、激しく鋭い雷を纏わせる。
「刃雷ッ!」
次回、539:オーバーヒート お楽しみに!




