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535:轟く足音

 異形たちの猛攻は止まらない。その差はティオとエイルの救援では覆らないほどに大きい。


「ティオ、出すぎるな。俺がカバーできなくなる」


「りょ、了解……!」


 しかし、それでもエイルと共にうまく戦線を支えてくれている。この活躍に報いるためにも、どうにか起点を作らなくては。


均衡天秤・限定展開(リステラ・ゼロ)!」


 障壁を展開し、負傷したシャーロットに向いた攻撃を防ぐ。だんだんこれを使うのにも慣れてきた。一瞬の、魔力が俺の力の許容量を超える時の焼かれるような感覚さえ覚えればどうということはない。


 この中で一番厄介なのは流体の異形だ。とにかく隙を突いて俺たちの背後や足元を狙ってくる。奴さえ崩せば少しはやりやすくなるはず。


 周囲を見回し、差し迫った危機がないことを確認する。そして踏み出す一歩。異形の流体だけは受肉した部分がほとんどない。俺の力でそのほとんどを枯らし尽くせる。


「見えてるぞ」


 背後からの不快な声。いつの間にか、首魁の異形が背後に移動している。そしてその手は竜のような鉤爪を持った凶悪なものに変化している。それだけでない。口にあたる部分から漏れ出るのは、明らかに尋常のものではない。圧倒的な熱気を備えた呼気だ。


 大振りな腕の一撃を刀で受ける。どうやら竜のように変化させている部分はその耐久性も同様のものになるらしい。受肉しているだけ厄介だ。


 がっちりと掴まれる前に刀を抜くと、返す刀で腕の付け根を……。


均衡天秤・限定展開(リステラ・ゼロ)……!」


 転倒したリリィと、それを庇ったハイネ。二人に魔導機関の異形から強大な魔力砲が降り注ごうとしていた。アーツはローブの異形の羽を防いでいる。俺が守らなければ二人が落ちる。


 もう刀を構える余裕はない。掲げた左腕でどうにか竜の爪の一撃を受け切る。鋭い痛みと、どくどくと血が出る感覚。傷はかなり深い。しかしどうにかリリィとハイネは守ることができた。


 俺ならある程度の傷は治せる。この負傷で仲間を守れたならむしろ得だ。傷が微妙に深いせいで、本調子で戦うにはしばらくかかりそうだ。だが、力としての強さはあろうと経験の乏しいこいつら相手であれば、刀一本で凌ぐくらいはできるだろう。問題は……。


「……!?」


 途端に反転する視界。まずい。気をつけるべきとずっと思っていたのに、まさか俺が引っかかるとは。


 流体の異形に足を掴まれ、持ち上げられてしまった。こうなっては避けようもない。そして、俺は戦っているうちに皆から離れ過ぎてしまった。ここからでは誰の援護も届くまい。


均衡天(リステ)──────」


「遅い」


 異形の呼気は、確かに竜のそれへと変貌していた。この炎で焼かれて、何秒耐えられるだろう。身体補強(フィジカル・シフト)を全開で身体の耐久力向上に回し、その時を待つ。


 間隔を空けて鳴り響く雷鳴は、まるで俺に向かって近づいてくる、死の足音のようだった。この、無慈悲で苛烈に轟く……。


 異形から灼熱の呼気が溢れるその瞬間、思考が巡る。今までとは違う雷鳴。ティオの言葉。どこかこちらに近づいてくるように聞こえる足音。その問いは。


祓雷ハライ


 雷鳴と共に異形が地面に崩れ落ちる。


「あまり攻撃を勿体ぶるな。その刹那が生死を分けるぞ」


 弾けた雷のように蒼い髪、鋭く整った顔。そしてそこから注ぐ鈍い灯りを湛えた視線。巡る思考の中で答えは出ていた。しかし、それでもこの光景を目の前にすると信じられないという気持ちが湧いて出る。


「オラージュ……?」


 鋭い蹴りで俺の足を掴んでいた腕を切り落としてもらう。説明するのも面倒だ、という様子で、オラージュは視線を遠くに向ける。釣られて追ったその先には。


「お、レイ坊、間に合ったみたいだね。よかったよかった!」


 嵐の中に堂々とはためく巨大な旗。不敵な笑み。堂々たる覇気。俺たちの王が、そこにはいた。

次回、536:王の選択 お楽しみに!

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