533:魔神に通じる者
「竜の力はなかなか。……だが神と『成る』には程遠いな」
つまらなそうに異形が吐き捨てる。短い言葉だったが聞き逃すことはできない内容だ。奴は神へと成長する可能性を秘めている、そういうことか。
「貴様、今神に『成る』と言ったな」
「へぇ、こっちでは神にはなれないのか」
つまり向こう側で神になることは可能、ということ。しかし、それはおかしい。使う術式の構成や身体の構造、それらが違うだけで俺たちはほとんど同じシステムの中で生きているはず。絶対的な存在である神はそう簡単に生み出されるものではないはずだ。
「グラシールさん、こちらでは、本当にそういうことはないんですか?」
「俺の知る限りではな。それこそ、絶対無限の力を得ることがある種神に近づく行為だった。あり得ない話ではないが、秘匿されているのでもなければそんな方法は存在しないはずだ」
グラシールが断言しなかったのは、おそらく本当に秘匿されている可能性がそこまで薄いものではないからだろう。
神については俺も詳しく知っているわけではないが、彼の言いたいことは理解できる。ファルス王国で感じた、自らの立場を安寧にそして永遠のものとしようとしたのは神、その配下だ。
もし全ての存在に神になる可能性があると露呈すれば、彼らの立場も危ういものとなる。忠誠も揺らぎ、中には神に成り代わろうと自分の立場を侵そうとする者も出てくるだろう。だからそういう理由で秘匿したというのは十分に考えられる。
一つ、可能性があるとすれば、こちらの神と向こうの神、その出自の違いだろう。膨大なエネルギーの顕現によって生まれたこちらの神と、そのカウンターで世界が創り上げた向こうの神、魔神。その成り立ちには大きな違いがある。
そもそも『魔神』などというのは神々が便宜上呼び始めただけの呼称。本当に『神』と同質の存在であるというわけではない。違いがあるとすればそこだろう。
しかし、もし奴が魔神となるほどの力を持っているのだとしたら。それはそれで、放置しておくわけにはいかない。
大量の魔力ですら隠しきれないあの覇気、そして異常な力。あれと並ぶ強さの存在が二体も三体もいたらこちら側に勝ち目はなくなる。
「レイ、君には一旦防御を頼みたい」
「任せとけ。頼んだぞ」
【影】の養成で少し前に出る。これだけの戦力が揃った以上、あの小さな標的を同時に攻撃はできない。まだ目はじりじりと熱い。俺は守りに回った方がいいだろう。
異形の動きに気を配りながらも、攻撃陣の邪魔にならないように少しずつ位置を変える。雨も徐々に弱まっている。おそらく自身の強化に力を注いでいるのだろう。いつの間にか囲まれている、ということはなくなったがその分奴も力が増している油断はできない。
「神話顕現、【千の縛腕】!!」
【静】の腕が異形に絡みつき、その動きを封じる。それと同時に【影】とリーンが動く。が、一瞬遅かった。身体をバラバラに千切って腕の高速から抜け出した異形は、魔力で砕けた身体を拾い、修繕する。リーンの刃も、【影】の軍刀も虚しく空を切る。
さっきもそうだったが、こいつ、自分の損傷を何とも思っていない。少女の異形ですら傷つくことを避ける行動があったというのに。
「やはり囲まれると面倒だ。少々遊んでいてもらおう」
「させません!」
「やらせない」
何やら魔力を放出し始めた異形に対し、ハイネの斬撃とリリィの魔力砲が叩き込まれる。ハイネに四肢の先を斬られながらも魔力砲からは身体半分ほどを残す回避をして、異形は再び体を再生させる。
「邪魔だ」
【魔弾】にも似た黒い弾丸。その一撃をリリィとハイネの前に踊り出て右手で受ける。やはりただの魔力。大したことはない。
「……渇願顕現・守護者」
次回、534:守護者の記憶 お楽しみに!




