532:デスペア・メイカー
生成した軍刀での攻撃をアーツが障壁で防ぐ。これ以上押しても意味がないと判断したのか術式を解除して着地する。身体の代替と物体の生成、いずれもこちらでは相当に難しいとされている術式だ。
誕生した時の力を保っている彼らと、神代から大きく変化している俺たち。同列に語るのは難しい話ではあるが、それでも稀有な力だ。
とはいえ、どんな人間にもできるということではないのだろう。凡百の異形、そして位の高そうな少女の異形もそのような力は使っていなかった。おそらく、これはこいつの力。俺たちと同じように、彼らにも向き不向きがあるのだろう。
羽ばたき舞い上がろうとする竜を、【滅】が抑える。竜に飛ばれてしまっては、上空から炎を吐かれ放題だ。抑えてくれて助かった。
とはいえ竜もさっさと倒してしまわなければ、対応に相当消耗する。今俺が有効に攻撃でできるのは竜だ。こちらと戦うべきか。
立ち止まり、竜に振り向くまで普段の倍はかかった。じわじわとした疲労が少しずつ表に出始めているのだ。救援に来てくれた面々以外の動きは徐々に悪くなっている。少し休めたとはいえ、長期間にわたって蓄積した疲労はなかなか取れない。
だが、一つだけいいこともある。少しハイになってきているのだ。気分だけでなく、今なら何でもできる。ある程度追い込まれることで力が出るというか、本領を発揮するためにかなりウォーミングアップが必要というか、そういう感じだ。
問うように俺を見るアーツに、軽く返す。彼の言いたいことはわかっている。異形からの攻撃から仲間を守るのがアーツならば……。
【滅】の高速を振り切り飛び上がる竜。流石の隊長殿も神代の竜の膂力には敵わないか。竜はそのまま炎を履くため大きく息を吸い上げる。
「下がれ、【滅】!」
足元が地面ではない今、直撃すれば彼ですら再生は間に合わない。こんなところで大きな戦力である彼を無駄に消耗させるわけにはいかない。
「均衡天秤・限定展開」
今度は不安はなかった。熱く燃える左眼が、今なら問題なく使えると俺に告げている。その予感の通り、展開された障壁を前に、炎のエネルギーは全て消失する。
「落ちろッ!!」
竜の首に黒布を巻きつけ飛び上がった【破】は、その脳天に踵を叩き込む。灼熱の炎を纏ったそれを喰らって、攻撃直後の力が抜けた状態で耐えられるわけがない。
そして、上空にはさらに大きな影が。グラシールが氷塊を生成したのだ。バランスを崩したアレに、もはや氷塊を躱せるほどの力はない。
巨大な氷塊を真上からぶつけられた竜は、少しも抵抗できずに地面に叩きつけられる。まだ消滅こそしていないが、もはやほとんど戦力にはならないだろう。
「図体がデカいのも、考えものだな」
異形はふらりと歩いて竜に触れると、少しずつその魔力を吸い上げていく。徐々に竜の魔力は薄れていき、最後には巨大な氷塊が、丘のように残るだけだった。
そして、ふたたび巻き起こる竜の風圧。その発生源はもちろん異形だ。先程より風圧の強さこそ穏やかになったが、しかし吹き付ける風の種類、覇者のみが持つキャスのような威圧感を孕んだ風であることには変わりない。
「だが頭数も大事だ。そうだな……」
異形の顔のあたりに妙な空気が流れる。一瞬迷ったが、これは……。竜の息吹だ。吸い上げた力全てを、再び自分に展開したのだろう。その呼気は、おそらく竜と同じ温度を持っている。
炎は俺とアーツの障壁で防げる。しかし、どんどん力を得ていく奴に対して、俺たちは何をすることができるのだろう。
次回、533:魔神に通じる者 お楽しみに!




