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531:百鬼継接

 受肉した異形。まだ黒い魔力の靄が残っているが、それでもそのほとんどが実体化している。彼らにとっての実体化の意味合いはわからないが、少なくとも俺が簡単に倒せる相手でなくなったのは確かだ。


「もう警護はいい、好きにやれ」


 異形が竜に触れる。胴と翼、断たれた二つの部分の傷口が黒い魔力で繋がれ、そして塞がる。もともと魔力でさまざまな異形を量産していた当人だ。修復くらい出来ても疑問ではない。


 受肉してもその力は健在ということか。とにかく、ここで倒し切るしかない。受肉して一つよかったことがあるとすれば、それは俺が本領を発揮できるということ。実体があるならば、必ずしも俺の身体で触れる必要はない。つまり刀を使えるということ。


 刀を抜き、異形に斬りかかる。うまいこと避けられてしまったが、この一撃で全てわかった。こいつ、戦いに関してはズブの素人だ。この隙だらけの、身体能力だけの回避は力も戦い方もわかっていない人間のそれだ。


 ただ、気になるのは復活した竜だ。未だ大きな動きはないが、自由に動かれては困ってしまう。場合によっては俺が竜を倒さなくてはいけなくなるのではないか。


「お前の身体はよく燃えるか?」


 付近の異形を【静】とセリたちに任せ、【破】が飛び出してくる。彼女の速度と卓越した拳術に対抗するのは難しかろう。


 鋭い打撃で異形を押していく【破】。しかしそれがどの程度ダメージになっているのかはよくわからない。なにせ骨があるわけではないから特に強打を入れても機能の低下があるわけではないのだ。


「これが打撃ね。よくわかった」


 それを逆手に取られた。鋭い蹴りが【破】の顎に入り、空に打ち上げられる。おそらくいくら打撃を入れられても痛覚や身体機能の低下がない。ゆえに人では不可能な反撃を成し遂げられるのだ。


 とはいえ、俺も似たようなことをするが。反撃を許さない攻撃に対し、身体補強(フィジカル・シフト)をフルに活用してどうにか一撃叩き込む。こいつほどの余裕はないができないことはない。


「ならばこれはどうです?」


 地面から伸びてきた無数の刃が異形を貫く。リーンだ。実体があれば彼女の刃による拘束も十分に利く。


「武器ね。なかなか便利だなぁ」


 異形は身体に突き立てられた刃を無視し、その肉体をズタズタに切り裂きながら剣の山から抜ける。奴にとってはそれでいいのだ。


 腕が、首が落ちようと、魔力で接続して再生してしまうから。接続部から魔力が漏れているあたりダメージは皆無ではないのだろうが、それでも拘束されるよりはマシ、という程度の軽微なもの。先ほどまでは甘く見ていた。しかしこの耐久性、やはり受肉するメリットはあったというわけか。


「仮想顕現・魔狼(フェンリル)


 短い呟き。祈祷のようなそれは、黒く不穏な魔力を異形の身体の底から呼び出していた。


 次の瞬間、その姿が消える。消滅、隠蔽、いやどちらも違う。超高速の、瞬間移動とでも呼ぶべき移動だ。魔力の残滓がほんの少しだけ感じられる。そしてこれは……。


「ハイネ!」


「ここ、ですね……!」


 凛とした鋭い魔力と共に異形の姿が露わになる。それは、ハイネによって足を断たれた狼だった。後衛の、リリィやアーツ、カノンたちがいる方に向かっていた。先にそちらから潰してしまえという考えか。


 だが、よく見ればその身体は魔力でできている。受肉したはずの身体は……。


「んじゃ、仮想顕現・(オーガ)。……と、それから虚真顕現・軍刀(セイバー)


 奴の力、その正体がわかった。狼の形を取っていた魔力は霧散し、中から本来の異形が飛び出してくる。再度の詠唱と共にその腕は魔力によって巨大化し、そして巨大な軍刀が握られていた。


 魔力で身体の一部、もしくは全体を拡張できるのか。それに加えて本体のあの耐久性。


 絶望してしまいそうだが、そうではない。俺たちはずっと奴を追い詰めている。亀裂は塞がったから撤退も増援もない。最初は手駒を使っていたところを、今はこいつ本人が最前線で戦っている。


 それはつまり、そうせざるを得ないほど奴を追い込んでいるということ。勝機があるということだ。

次回、532:デスペア・メイカー お楽しみに!

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