51:メイド・イン・トレイン
王都に帰る準備は終わり、さてこれから駅に向かおうとしていたその時に、全員まとめて領主に呼び止められる。
「出発前に済まないね。君達を国王直近の人間と分かりにくくするために、これを着ていただきたいんだけれど、大丈夫かな」
領主が持ってきたのはモノトーンの服。侍従なんかが良く着るような執事やメイド用の服だ。確かに俺たちだけが他と違う服を着ていれば、何か特殊な存在だと気づかれやすくなる。それを考えれば自然な対応だ。だが。
「これ、キャスさんがよく買ってる服に雰囲気似てるっすね」
核心を突いたカイルの一言にキャスの顔が引き攣る。提案したのも、買ってきたのも確実にこいつだろう。昨日妙にそわそわしていたのはそのせいか。リリィに着せる分には構わないが、俺が巻き込まれる日がこんなに早く来るとは。
しかしそんなことを考えているのは俺だけのようで、カイルとリリィは結構喜んで着替えに向かって行った。カイルはよくわからないが、リリィはきっと、シーナと同じような服装でいられるのが嬉しいのだろう。それを見ていると、今回ばかりは付き合ってやってもいいような、そんな気がしてくる。
「仕方ないな。警護の都合上って建前も間違っちゃいないし、着てやるよ」
少し大げさにやれやれと首を振ってから、服を掴んで更衣室へ向かう。俺と入れ違いに出てきたカイルはずいぶん様になっている。もともと人相だけで言えばかなり社交的で親切そうな方だ。こういう服装はよく似合うのだろう。
「しかし、武器はどうしたものかな」
手数、というか変わり種の少ない俺は魔導具が生命線だったりする。銃もその一つだ。しかしこの服では大きなものは隠しにくい。刀は普段から出しているからまだしも、散弾銃などはさすがに今回は留守番か。
俺が手持ちの装備を最大限活用しないとどうにもならない相手などが襲撃に参加するとは考えにくいが、やはりもしもの時を思うと少し不安になる。
だが仕方のないものは仕方がない。脱いだ服と一緒に一部の装備は荷物としてまとめることにした。普段から似たような服ばかり着ているせいで、こういう正装とまではいかなくともきちんとした服装をするのは初めてだ。
新鮮な体験できて良かった。だが、俺は致命的な欠点を見落としていた。
「ぷ、ぷぷ、レイ、よく似合ってると思うよ」
キャスが笑いを堪えながら言う。確かにキャスの言葉に嘘はないだろう。似合っていない訳ではないから。しかしそれはカイルのように好青年然とした執事の姿ではなく、ギルドの若頭といったところか、目つきが悪いせいで完全に裏社会の人間にしか見えない。
「僕はいいと思うっすよ! 昔とても親切にしてくれたお兄さんにそっくりっす!」
一応褒め言葉として受け取っておこう。悪意は感じない。礼儀正しく落ち着いた雰囲気の従者の中にそんなのが混じっていたらシャレにならない。一応不良上がりの執事として誤魔化すことはできないこともないが、いや無理か。俺は本当にこれでいいのだろうか。
「お姉、着替え終わったよ」
自分の人相に頭を痛めていると、背後からすっとリリィが現れる。服には無駄にフリルが多いが、それ以外は一般的なメイド服で、髪の白いリリィにはよく似合っている。ちゃんと仕事ができるかは微妙に不安な感じだが、服装のみを語るのならば申し分ないだろう。
「いやぁ、リリィちゃんはやっぱり何着てもかわいいねぇ。よーしよし」
キャスが完全に変態と化している。ハイネといいキャスといい、リリィはこういう人間を引き寄せる力でもあるのだろうか。ハイネのリリィ好きは禁呪の影響もあったとはいえ、あれは根本を変革してしまうほどのものではない。そこかでリリィを羨むというか、そういう心があったのだろう。
まあ本人はまんざらでもないようで、少し目を細めながらキャスに撫でまわされたり抱き上げられたりしている。リリィ自身が嫌でないのなら、俺は何も口を出すまい。
キャスが満足いくまでリリィを愛でると、今度こそ駅へ向かう。最後までネックだった刀は、キャスが魔術でペン程度のサイズに縮めてくれた。鏡写しの応用でできるというが、よくわからない。触ることで魔術が解除されるから、緊急時にもすぐに取り出せて対応しやすい。
ぞろぞろと一等車に乗り込む。事前に鉄道側に告知しておいたおかげで、俺たちのいる車両には余計な乗客や従業員はいない。この数の少なさは、なんとなくこちらへ来た時の夜を思い出させる。
「皆様、何かお困りはございませんか? 長い列車の旅になりますゆえ、御用がおありでしたら何なりとお申し付けくださいませ」
発車してすぐ、白髪の老爺が声をかけてくる。誰かと思えばヘルハだった。俺たちの時もそうだったが、特殊な状況下での仕事はやはり経験豊富なベテランに任せよ、ということだろうか。
いつ戦闘状態に突入するかわからないため、俺たちは今回は特にヘルハの世話になることはなさそうだ。領主とヘルハはどうやら魔術学校時代の知り合いだったようで、このような席だからだろうがかなり軽い口調で話している。世間は狭いというか、案外に広くはないといったところか。
この前鉄道に乗ったときは夜だったから外は真っ暗で何も見えなかったが、今回は景色が流れていくのが見える。このスピード感は馬や舟では味わえないものだ。
「なあキャス、これってどれくらいの速度が出てるんだ?」
「うーん、今この時点って意味では分からないが、平均するとだいたい馬の1.5倍くらいの速さらしいね」
数字だけ聞くと大したことはないように聞こえるが、実際にそれを体感すると随分差があるように感じる。今まで列車なんぞ乗る機会がなかったし、こうして新しいなにかを知ることができるのは少し嬉しい。こんな時にリリィが寝ているのはもったいない気もする。
一度出発してしまえば列車はなかなか止まらない。ある程度の速度を確保するために停車駅は各州に一つあるかないかといった具合で少なくなっているからだ。それのせいで毎便飛び乗り飛び降りが一定数横行するようだが。狙い目は建造物の密集する地帯を徐行するときらしい。
しばらくするとその建造物密集地帯に突入したようで、景色の流れが見慣れたものに変わる。この街にも飛び乗りがいたりして。駅こそないが規模自体はそれなりにある街だ、仕事を求めて無一文で王都に向かう人の一人や二人いてもおかしくない。そうしてまた貧民街の仲間が増えていくわけだが。
またしばらくして再び速度を上げ始めた列車は、南部には珍しい穀倉地帯に突入する。刈り入れ時は俺たちが国内外を駆け回っている間にとっくに過ぎて物寂しい風景になってしまっているが、秋の麦畑は本当に綺麗だと聞く。ここだけでもかなりの広さだ、北部などに行けば一面金色の光景が広がっていることだろう。
領主とヘルハも話題が尽きたかあるいは歳か、領主が寝てしまい今は黙っている。キャスとカイルの目は開いているようだが、疲れているのか特に喋る様子もない。列車の立てる音はするものの、それを除けばこの車両はずいぶんと静かだ。
だがその静寂は、無節操で野蛮な爆発音によって壊された。一瞬にして。
お待たせしました! またまた久しぶりの更新になります。
休載の原因になっていることに関してもだいぶカタがついてきたので更新ペースを少しずつ元と同じくらいに戻していきたいと思います!
まだ少し不安定なペースになってしまうとは思いますが、応援よろしくお願いします!




