522:止まない雨
「魔力は戻せるか!?」
「30秒だけちょうだい。足手纏いにはならない」
リリィは魔力を落ち着かせ、銃を抜いている。左手にきらりと輝くのは例のイザベラの魔力を混合させる魔導具か。
周囲にいるのは凡百の異形。すぐに俺たちが落とされることはない。とはいえ、この光景は嫌な記憶と被る。誰もが少しはそのことを考えているのかもしれないが、その危機感とデジャヴを最も感じているのは俺だろう。
止まない雨、消えない異形、そして自分の体力が少しずつ削られていく恐怖。船の上で孤独に戦っていたあの時とほとんど同じ光景だ。俺たち全員相手に、あれを再現しようというのか。
俺たちの周囲に湧いて出る異形を叩き消して回ると、リリィも戦えるだけの魔力を取り戻したようで、魔導銃で素早く異形を撃ち抜いている。
俺たちの誰もが、上空に鎮座する異形の討伐を諦めつつあった。届かないものに手を伸ばすよりも、今届くものに手を伸ばそうと。しかし、それではこの戦いは終わらない。カイルは果敢に狙っているようだが、連射の効かないあの砲台では隙を突くのも難しいようだ。
「グラシール、お前なんとかできないのか!?」
「高い、速い、掴みにくいの三拍子揃ってんだ。なかなか氷じゃ抑えられない」
どうにか氷で動きを抑えられないかとも思ったが、そう簡単にもいかないらしい。できたら言われずともやっているか。
「魔力が戻れば私がまた飛ぶ。次こそ落とす」
あまり無理はさせたくないが、それくらいしか俺たちの対抗手段はない。代案もないのに止めるわけにはいかない。
「随分と前線に出てくるようになったんだな」
「お互いね」
「それもそうか」
確かに、少し意味合いは違うが二人とも裏方、影の中で動いていた。リリィは後方に控える最終兵器として、グラシールは国を密かに凍てつかせる魔法使いとして。
彼らの姿は誰にも気取られず、そして見られることもなかった。それが、今は戦場の最前線で戦っている。
今が非常事態だから。そう言ってしまえば簡単だが、理由はそれだけではない。ファルスに芽生えた新緑が死力を尽くしているように、誰もが変わりつつあるのだ。
そんな気持ちを逆撫でするように、再び少女の異形が現れる。魔力に余裕が出てきたのか、今度は三体同時だ。ファルスを危機に追い込んだ異形だが、そこまで貴重なものでもないらしい。ここまで簡単に呼び出せるものなのか。
再び、雨と共に雷鳴が轟きはじめる。こんな天気ではリリィも飛ぶことはできない。まずは少女の異形を全て落とさなければいけなくなった。
「奴は実体がある。俺とグラシール、それからシャーロットとリーンで奴を片付けよう」
「はい、頑張りますよ〜!」
「この人数で抑えられますかね……?」
リーンの懸念はもっともだ。その脅威を実感はしていないだろうが、迸る魔力と気迫だけでも難しい相手であることはわかるだろう。これは一種賭けだ。駄目そうなら他の面々の力も借りる。
なにも、仲間達の頑張りに賭けているわけではない。期待がないわけではないが、そういうことではない。俺は俺自身の可能性に、この戦いを切り拓く一種の力があると思っているのだ。
奴らは俺の力を知っている。と、思い込んでいる。できればそれをチャンスに変えたい。
俺には力がある。それこそ、自分でも制御しきれないほどのものだが。それをもし使えたのなら。……その時は、俺たち四人だけでも異形を滅ぼせるかもしれない。
因縁のあるこの相手になら、もしかしたら力を貸してくれるのではないか。
グラシール、シャーロット、リーンの前に進み出て、眼帯を軽く持ち上げる。どうか、俺たちを守ってくれ。
「頼む、ミュラ……!」
次回、523:聖女の眼差し お楽しみに!




