515:総力戦
「それぞれ本国にも連絡は行っているだろうけど、状況はそう変わらないかもね」
アーツの言う通り。もし支援があったとして、今の時点でそれを期待するのは危険だ。良くて物的支援、といった想定でいるのがいいだろう。
「とりあえず、大型船をもう二、三隻要請します。でないと奴を叩く足場がない」
さすがは大国といったところ。正直この戦い、ガーブルグの力がなければ早々に敗北していたかもしれない。同盟があってこそ、ここまで耐えられている。
異形の動きがどうであれ、俺たちが戦闘に入れるのは船が到着してからか。シャーロットに海を凍らせてもらうのもいいが、流石に広さからして心許ない。
「こ、ここは一旦見張を任せ、我々は休むこととしませんか。ここからはおそらく総力戦、体力、魔力共に温存しておくべきでしょう」
少し震えたセリの声。しかしその不安そうな表情も、同意を得られたことで少し和らいだ。これが彼女の自信に繋がってくれればいいのだが。
「今のところは動きが見られませんし、亀裂が閉じてからの作戦開始が良いかと思われますが、いかがでしょう?」
「たしかに! 亀裂が閉じちゃえば向こうは追撃できないもんね〜!」
リーンとシャーロットの言うことも一理ある。ただ、あくまでそれは理想の話。それまであの異形が大人しくしてくれていればの話だ。もしこちらに向かって攻撃を始めるようならば、それこそ無茶を覚悟で戦うことになるだろう。
セリの言う通り、これは総力戦。俺たちの全てを結し奴らにぶつける戦いだ。今までのような長い戦いではない。奴を滅ぼすか、俺たちが滅ぼされるかの競争だ。
「もしもの時は、頼んだぞ」
眼帯の上から左目を軽く撫で、言う。期待をしてはいけないと思いつつ、どうしても期待してしまう。いや、これは期待ではない。願いだ。
全てに絶望しながらも、その全てを覆してくれた力。それが、俺の今際の際の危機にまた輝いてほしいと、願っているのだ。都合のいいことかもしれない。だが、彼女が最後の希望だと、そう思えば力が湧いてくる気がする。
話し合いながら監視体制を整え、だいたい仕上がったところで部屋に戻る。これ以上異形が動かなければいいが。
チャンスは今しかない、と鍵を使おうとして、やめた。ヴィアージュは俺の望み通りに戦ってくれる便利な兵士ではない。彼女の意志で戦場に立つと言うのなら止めないし、そうでないのなら誘ってはいけない。
きっと彼女は来て、存分に力を振るってくれるだろう。しかし、今回は良くてもこれからはどうなる。毎回困ったことがあれば彼女に頼る。それは違うだろう。
きっとそれは彼女の望む俺でもない。彼女が信奉しているのは俺たちの芯にある強さ、絶望的な状況を信念と生存の意思で乗り越えていくその様子だ。便利な手段に甘えた俺など、彼女は望まないだろう。
それに勝利の算段がないわけではないのだ。まだ誰にも話していないが、きっと皆がどこかで考えている。
俺の体質はほとんどの異形に対して有利どころが、一撃必殺の可能性を秘めている。そしてあの異形、どう考えても実体があるようには見えなかった。それはつまり、身体が魔力で構成されているということ。
どんな虎の子を出してきたのかはわからないが、その身体が魔力でできているならば、俺が枯らすことができる。カイルの銃撃やらを見ていて気付いたが、イザベラの力を借りてできた傷は、断面が綺麗でそこから魔力が抜けていかない。俺たちで言えば、腕を切り落とされても血が流れないとか、そういうイメージだろうか。
とにかく、効率よく止めをさせるのは俺だ。もし全員で奴を叩くというのなら、身体を削ってもらって、細かくなったところを俺が消す。それでいいはずだ。
気になるのは、魔導機関の炉心のようなその力。そもそも、接近を許してもらえればいいが。
俺も含め、皆気にしているのはそこだろう。攻撃が通じるようになった今、俺たち全員でかかっても火力不足ということはないはずだ。問題はあの異形の強大な力を前に、近付けるかどうかということ。
不安はあるが、どこかで安心感もあった。ここにいるのは、皆どこかで俺と肩を並べ、もしくは刃を交えた者ばかり。その強さはよく知っている。楽観視と言われてしまえばその通りだが、しかしどこかで「行ける」気がしているのだ。
一抹の期待と共に、寝床に就く。いけないとわかっていても、どうしても止めることができなかった。そうでないと、もっと大きな何かに押し潰されてしまいそうだったから。
次回、516:創世の海 お楽しみに!




