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513:現世の異界術師

 ちゃんと読んでいなかったのか、というリリィの視線が突き刺さる。確かに興味のある部分を読んだだけではあったが。ハイネが宥めてくれたおかげもあって、なんとか追求は免れられた。


 ポーチに書類をいつも入れているリリィが該当の部分を見せてくれる。よくわからなくて読み飛ばしてしまっていた部分だ。読んでみてもよくわからない。


「まあ、勉強しないとわからないですよね。私もイゾルデに教えてもらってやっとわかった、って感じでしたから」


「イゾルデか……見せていいものなのか?」


 かなりの機密事項が書かれた書類だ。あまり関係のない人間に見せてしまうのは憚られる気もするが……。


「いいもなにも、この研究の協力者ですし。大丈夫ですよ」


 優秀だということは知っていたが、それほとどは。実際同盟が始まってからすぐにその活動に協力してくれた人材ではあるが、ここまでの待遇になるものなのか。


 専門用語はわからないが、ハイネに教わりながら読み進めていくとだんだん概要がわかってくる。


 今回の理論の肝はイザベラ、彼女の異界に異様に親和性の高い魔力と体質だ。【虚】、未だ解明されていないそれと溶け合う力を持っていた彼女は、【影】の要請で魔力を提供。その力の真価の解明が進んだ。


 結局のところ、イザベラは【虚】にのみ適合する魔力を持っていたわけではなかった。どちらかというと、境界を曖昧にするような、そんな魔力。これが応用できるのではないか、ということで人工魔力回路の開発に至ったイゾルデに話が回ってきたらしい。


「つまり、イザベラの魔力を借りて異形の存在をこっち寄りにしてる……って認識で合ってるか?」


「まあ、そんな感じですね。イゾルデが言うには『法則をねじ込んでいる』らしいですが、ちょっとよくわからないです」


 今更知った身ではあるが、イザベラの存在には異形に攻撃できるというだけでなく、それ以上の意味がある。彼女の存在は、俺たちと神話領域外を対等な力関係に戻すためには必須かもしれない。


 今回侵攻を受けたのは、彼らに異界術師というこちらに干渉できる異形がいたからだ。一方的に異界干渉のできる戦力を抱えられていては向こうが有利だったが、もしイザベラが同じことができるようになるというのなら話が違う。セリの言っていた反撃すら可能になるかもしれない。


 時間が経ったせいか、それとも疲労のせいか、復讐心のようなものは薄れてきた。今あるのはただ危機感ばかり。魔神と相対した時こそ怒りが湧いてきたが、あくまでそれは奴の言葉が気に入らなかっただけ。


 だが、俺なんぞの恨みの有無は重要な話ではない。奴らは変わらず俺たちの敵、滅ぼすべき存在だ。


「レイ……?」


 リリィが顔を覗き込んでくる。少し表情が険しくなってしまっていただろうか。ここのところ心配をかけてばかりだ。余計な懸念はない方がいいだろう。


「んいや、いろいろと難しくてな。これだけ勉強したし、許してくれるか?」


「いいよ。わたしもわからないし」


 だろうとは思っていたが。しかし彼女は自分が主導になった仕事をきっちりこなしたいのだろう。そのためにも書類の熟読は大切、ということだろう。こうして仕事ができるようになるならそれに越したことはない。


「よし、修理完了っす!」


 カイルが工具を仕舞って伸びをする。よく見ると、細かい部品やらが新しいものになっている。小さなパーツは熱などで損傷しやすいのだろうか。


 気づけば日も沈み始めてしまっている。そろそろ夕飯の時間だ。ケーキは食後でもよかった気がするが、おやつでもセーフ、という時間だっただろう。


 リリィに手を引かれながら食堂へ向かう。さて、今日の献立は何だっただろうか。

次回、514:その終わりが来る瞬間まで お楽しみに!

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