509:歪んだ約束
「よ」
「おかえり」
「約束通り、かはわからねえが、無傷だよ。俺はな」
なんとも嫌な約束の守り方をしてしまったが。俺はたまたま何もなかっただけ。ヴィアージュ、セリ、ハイド、カノンは無事とは言い難い。
本当に約束を守ったといっていいのだろうか。どうにも後味が悪い。まるで俺が、彼らを犠牲にして得たような……。
「レイは悪くない。ただ、運が悪かっただけ」
俺の心を見透かしたかのように、リリィが静かに告げる。俺と出会ってからそこまでの時間が経っているわけでもないのに、ずいぶんと大人になってしまった。
「なんでもお見通しだな」
そう言うと、リリィは少し誇らしげに笑う。アーツのようで少し嬉しくなったのだろうか。そこで誇ってしまうとアーツからは少し遠のいてしまうが。
だが、おかげで少し気は楽になった。少し冷たい考え方かもしれないが、実際俺が彼らを貶めたわけでもなければ、彼らが俺を庇ったわけでもない。リリィの言う通り、ただ運が、巡り合わせが悪かっただけ。
もっと冷酷に考えるのならば、今回の遠征で得られた利益と比べれば安い損害だ。もちろん、俺しか被害がないのならもう少しはっきりと言うことができたのだが。
「そうだ、皆に話さないと。各国の代表者を呼んでもらってもいいか?」
「任せて。レイは着替えた方がいい」
そういえば、大体乾いたとはいえ俺の服はしっかり海水を吸っている。軽く身体を拭いて、着替えた方がいいだろう。
リリィに召集を頼むと、俺は部屋に戻る。思えば俺が率先して人を集めるなんてことは滅多にないから緊張してしまう。皆見知った相手ではあるのだが、こう、改まった場だと思うと余計に気になる。
替えの服を着て会議室に行くと、すでに召集した全員が集まっていた。セリも意識を取り戻したようで、来てくれたようだ。
船を任せていたリーンに代わり、【破】が出てくれたようで、ニクスロットの代表者としてリーンが席についていた。
「えー、俺が、亀裂の中で見たものについて話したい。端的に言うなら、それは向こうの統治者、『魔神』と呼ばれた存在だ」
全員の顔が引き攣る。その存在か、もしくはその名に慄いたか。むしろ俺のように直接会ったわけではないから余計に恐ろしいのかもしれない。
「姿を見たわけじゃない。だけど、あれは普通じゃなかった。そして俺とヴィアージュを嵌める程度には知性があった」
「つまり、今回の侵攻もその魔神の手引きだと?」
「はっきりとは言えない。だが、関知していた以上無関係とは言えないと思う」
そう、あれは明らかに異界術師を守るために俺たちを監視し、そして動いていた。侵攻について何も知らなければそんなことはしないだろう。
しかし、まだ目的がわからない。なぜ今、このタイミングでこちらに侵攻しようと思ったのか。それがわからないことにはどうすることもできない。再び攻めてくる可能性もあるかもしれないのだ。知っておくに越したことはない。
「このような事態が続くのであれば、元締めの魔神、及び異形たちを滅ぼすべきなんじゃないでしょうか……?」
セリの言うことも一理ある。だが、何もわかっていない状況であの世界に戦力を投入し、あまつさえ殲滅戦をするのは危険すぎる。なにしろあの魔神は本物だ。本気でやりあうとなれば爆発に巻き込まれて気絶、なんて事態では済まない。
今回の戦いでも思ったが、とにかくアドバンテージはあちらにある。こちらが同等の情報を得るまでは、俺たちは耐えるのが基本戦術になるだろう。
「「こんなときは……」」
俺とアーツの言葉が被る。アーツはちらりと俺を見ると、少し笑う。そして目を閉じると、俺に続きを促すように少し頷く。
「戦力も限られてるんだ、目的を絞ろう。俺たちの目的はあくまで亀裂周辺の死守。今回は、とりあえずそれに集中しないか?」
次回、510:脆くも輝く金剛石 お楽しみに!




