501:探すべきもの
「さすがだな」
「無理を言ってついてきたんだ。これくらいは働かないとね」
あの少女の異形を一撃で沈めるのが『これくらい』ならば、ヴィアージュの必死の働きはどこまで行ってしまうのだろう。見てみたい気もするし、もし見てしまったら過去には戻れない気もする。
「それより、仕事しないとな。俺たちの本来の目的はここの調査だ」
「そういえばそうだったね。楽しくて忘れてたよ」
そんなに楽しい作業でもないと思うのだが。いや、長い間自分で作った部屋の中で過ごしてきた彼女にとっては、こんな空間であろうと楽しいものなのだろう。
それはそうと、亀裂の付近にもその原因となるようなモノはなかった。だが自然発生したものとも思えない。
だが、誰にそんなことができるのだろう。異界を生み出すことのできるヴィアージュだったら可能だろうか。
こちらにすら、この二つの世界を開く隙間を作れるのはヴィアージュくらいしかいない。であればこちら側にいる術師というのも、ヴィアージュと同等の強さを持っているのではないだろうか。
ヴィアージュ級でなくても、ここに彼らを封じた神々と同じだけの力があるのではないか。不安はあまりなかったが、それでも恐怖は拭えなかった。
「いやぁ、何もないんだねぇ」
ヴィアージュの言う通り、だだっぴろい空間がただただ広がっている。おかげで迫る異形は見分けやすいが、どうにも探索している実感が湧かない。
実感もそうだが、適当なところで切り上げなければ。今回は装備を軽くするため、食糧はほとんど持ち込んでいない。何もないから時間の感覚が薄いが、1日くらいでできれば帰還したい。
こう広いと魔力を拾うのも難しいらしく、ヴィアージュでも亀裂に影響を与えている異形の存在は感じ取れないらしい。とはいえ歩いて探していても弱い異形を掃討して回るだけの作業になってしまう。
どうしたものかと悩んでいると、ヴィアージュがにやりと笑みを浮かべ始める。もしかして、何か分かったのだろうか。
「ま、見るべきものは見たし戻ろうか」
「いや、ちょっと早くないか?」
何か考えがありそうだが、まだ俺にはわからない。やりたいことがあるのなら教えてくれればいいのに。
「ふふ、君にも言っていなかったけどね。多分、私あの亀裂を閉じられるんだ。ちょっと君とここを探検したかったから、ついつい黙っちゃったんだ」
なるほど。そういうことだったか。それならそうと、俺に言ってくれれば黙って一緒にくるぐらいしたのに。意地が悪い。
ヴィアージュの言葉に従って引き返す。再び亀裂を作られることについての懸念はあるが、まずは中の様子について報告することが先決だ。
「とまあ、こうなるよね」
踵を返した俺たちの周囲を黒い魔力が囲い、明らかに体格の違う異形が現れた。首はないが、他の部分、俺たちで言う胴や手足の部分が大きく、そして太い。
ヴィアージュはこの状況を予見していたようだが、俺には何もわからない。引き返すことは許してくれないということだろうか。
「盗み聞きに盗み見、趣味が悪いねぇ。ま、残念ながら気付いてるんだけども」
ヴィアージュが上を見上げ、ひらひらと手を振る。俺にはわからないが、おそらくそのあたりから今の行動も、会話も聴かれていたらしい。全く気がつかなかった。
だから魔力の判別ができないと言っていたのか。あの時から既に、俺も彼らも欺いていたのだ。
俺たちを囲う異形から一歩引いたところにもう一体。鎧のような形をした個体がいる。あれが指揮官的な存在なのだろうか。
「さて、ちゃっちゃと倒して黒幕の居場所を吐かせようか! 地上のみんなはどうやってコイツら倒してたんだい?」
「え、知らないけど……」
「え……?」
次回、502:試行錯誤 お楽しみに!




