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494:最強の同行者

「面白い提案だけれど、彼女が亀裂内で活動できる根拠はあるのかい?」


 亀裂内への調査にヴィアージュも同行する。そんな提案をされたアーツは少し困惑していた。それも当然だろう。いきなり神代最強の存在が、俺たちの戦いの中に現れると言うのだから。


「現世にいる間はオラージュのマスクを、中に入ったら神代と同じ環境だろうから多分大丈夫だって本人は言っているが。もちろん無理そうなら撤退するつもりだ」


 神話領域外の異形たちは皆神代の黎明期に生まれた存在だ。加えて、ファルスで戦った少女の展開した場の中では魔力が充溢していたことを併せて考えると、亀裂の中には十分に魔力がある。というのがヴィアージュの主張だ。


 今回初めて知ったがオラージュのマスクの魔力持続時間は約30分らしく、それを併用すれば問題なく往復できるのではないか、と。俺としてはありがたいが、だからといって独断で決行するわけにもいかない。


「はてさて、なんと言えばいいものかね。少なくとも、俺はいいと思うけれども……」


 あのアーツの言葉の歯切れが悪い。なんだか少し面白い。アーツのこんな姿が見られるのならば、ヴィアージュを引き込んだ甲斐があるというものだ。


「どこにも所属していない最強の存在が、レイくんに肩入れしてついてくる。これを各国がどう受け取るか次第だね。彼女の存在を恐れる君主がいるのならば、実現は厳しくなると思うよ」


 なるほど、アーツが悩んでいたのはそういう訳だったのか。これは面白がっている場合ではないのかもしれない。


 確かにヴィアージュは神代においても神すら超えた最強の存在とされている。それが俺、つまり立場的にはアイラ軍部の最上層の一員に肩入れする。実際にはどうであれ、それをアイラへの肩入れと考える人もいるかもしれない。


 もしそうなれば。良好に運んでいた四国同盟に亀裂が入りかねない。アイラが過剰な力を持ち、他の三国を支配しようと考えている。そう思われてしまうかもしれない。


 大きすぎる力というのも考えものだ。少し力を借りるために、ここまでの面倒がついて回るとは。ヴィアージュが現世を捨て、あの異界に閉じこもったのも頷ける。全ての柵から解放されたかったのだろう。


 しかし、どう思われようとヴィアージュの力を借りたいというのは変わらない。彼女は考えうる限り、いや古今いずれの時代においても最強の同行者だ。得体のしれない異形たちの巣窟に突入するのに、力はあるに越したことはない。


 また、王都での決戦が終わった直後に近い感覚に立ち帰る。俺には制御しきれない強い力を持たされている、いや、持っているように見せかけられているような感覚。ここしばらくそれから解放されていた気がしていただけだったのだ。


 もう立場からも、力からも逃れられない。それを使ってやりたいことがあるアーツやキャスは別として、俺にそんなものは必要ない。ただ貴族や魔術師に憧れていた頃とは、ずいぶん違う。


「とりあえず、交渉は頼むよ。お前の得意分野だろ」


 だから俺は投げる。この立場は仮初めのもの。ならばアーツに少しその処理を投げてもいいだろう。俺は俺の力を使って亀裂の中に行く。アーツはその力を以てそれを実現する。これが俺たちにできる共闘だ。


 俺の調子もあと数日で戻る。それまでにはアーツも交渉を纏めてくれているだろう。アーツならば、きっとそうしてくれる。だから俺は、それを信じて待つのだ。


「任せたまえ。成功した暁には、俺も君に調査を任せるとしよう」

次回、495:組手 お楽しみに!

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