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488:訪問者たち

 身体も少し動くようになってきて、食事も一人で摂れるようになってきた。俺がこの病室から出られるようになればシーナの仕事も終わり、晴れてオルに帰ることができる。


 といっても彼女も、そしてリリィももう少しここに居たいと思っているようだが。リリィに会えるのに加えて、当たり前といえば当たり前ではあるが、オルにいる時より今の方が仕事が少なくて給料が高いらしい。言った後で口を押さえていたから、俺も黙っておいてやろう。


「あ。レイさん、お客様ですよ! 私は外しますね」


 暇だったしちょうどよかった。代わりに入ってきたのは【影】と【破】だった。当番の直後なのか少し疲れた様子だが、元気そうだ。


「お久しぶりです、身体はどうです?」


「ま、ぼちぼちってとこだ。二人とも、ありがとな」


「かか、お主のために来てやったわけではない。自惚れるなよ?」


 そう言って【破】は大きく笑う。その割には嬉しそうだが。そういえば、二人には船と食料の礼もしなければいけなかったのだ。


 あの戦い、俺が生き抜けたのは大量かつ質のいい食事があったから。蘇生剤に見合うだけの体力を補えるだけの食べ物は食べていたはず。医者も身体の酷使以外は至って健康だと不思議そうな顔をしていたし。


 それに、魔力を溢れさせずに留められたのも帝国の巨大船があったおかげだ。今までの船なら球から出た魔力が船外に溢れてしまっていただろう。


「いやぁ、照れるなぁ。具体的にお礼されるのって、こんな気持ちなんですね」


 いろいろと話したら、【影】を照れさせてしまった。確かに、よく考えてみたら恥ずかしいかもしれない。感謝したこちらも少し照れくさくなってしまった。


「お主ら、付き合ったばかりの恋人かぁ? とても国一番の剣士同士の会話とは思えんな」


 確かに、街で見かける恋人の様子に似ていたかもしれない。それにしても、内容が支援物資なのだから。いや、それよりも。


「国一番って言うと語弊があるぜ。俺は何度か剣の腕じゃ負けてるんだ」


「国一番……純粋な剣術には自信がないんですが……」


「かー! そういう所だぞお主ら! 馬鹿にされている気すらしてきたわ」


 そういうつもりはないのだが、やはり剣士同士、どこか通じ合う部分があるということだろうか。ならば【破】にはレオでもぶつけてみるか。扱う魔術も似ているし合うかもしれない。


 いや、やっぱりやめておこう。なんだかものすごくうるさくなる気がする。こう、密室に爆弾を何個も投げ込んだ感じだ。


「ふん、まあいい。それより、お主はいつ復帰するんだ? こんなことを言うのもアレだが、魔力を消し去る力がないとどうにも戦闘が長引いてしまってな」


 結局異形を倒す手段がどんなものなのかはわからないが、俺の魔力喰いよりは手間取るようだ。責めるつもりはないのだろうが、早く復帰しなければ。


「もう少し、動けるようになったらだな。すぐに戻るから、後もう少し頼むよ」


 新鮮な気持ちだ。他人にこうして俺の不在を任せて、ゆっくり休むなんて。【影】と【破】の顔は、今日一番の笑顔だった。


「ええ、お任せを」


「おうおう、バッチリ貸しておくからな!」

次回、489:訪問者たち2 お楽しみに!

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