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479:領域外侵攻対策委員会

「それじゃリリィちゃん、お仕事始めようか」


「了解。頑張る」


 ハイネの後について歩く。今日の私たちの仕事は書類整理。研究所から送られてきた、滅茶苦茶になった乱雑な書類をまとめる仕事だ。


「上の方に番号が振ってあるでしょ、これが揃うようにまとめて会議室に持って行くの。内容をまとめるのは専門の人がやってくれるから、抜けがないように集めれば大丈夫だよ」


「う、うん……」


 始まってもいないのに心が折れそうだ。山のような書類を一つ一つ確認してまとめなくてはいけないなんて。そもそもなんでこんな書類がぐちゃぐちゃに……。


 いや、やるしかない。もしかしたら、この中にレイを助ける手がかりがあるのかもしれないのだ。見つけるのが早ければ早いほど良い。


 とりあえず、手前の紙の束を掴んで持って来る。いきなりグループがバラバラな紙が一緒になっている。これを振り分けて持っていけばいいのだ。


「でも、リリィちゃんがきてくれて助かっちゃったなぁ。お手伝いに立候補したのはいいんだけど、やっぱり大変でね〜」


 そうは言うけれど、ハイネの仕事は私の何倍も早い。どんどん書類の山を捌いていく。


 亀裂が発見され、それが神話領域外のものだとわかってすぐに発足した領域外侵攻対策委員会。せっかくお姉とアーツの目的が果たされたところだというのに。


 おかげで変わりつつあった国のほとんどが止まってしまった。お姉をよく思わない貴族は小さな亀裂一つにおおげさだと騒いでいる。


 神話領域外の敵の強さは実際に撃退した私たちが一番わかっている。新しい教皇もその危険性は伝えてくれているけれど、やはり効果は薄い。文句を言うならレイの代わりに前線で戦って欲しい。


「よし、ここは一旦まとまったから持って行ってくれる?」


「わかった。任せて」


 ハイネがまとめた紙を抱えて部屋を出る。私がやった部分も7割くらいは終わっている。戻ってきたら続きをやろう。


 私たちのいた資料臨時保管室から対策委員会本部は少し遠い。食堂の前を通ると、うっかり匂いに釣られてふらふら歩いていきそうになる。


 いけないいけない。食事の時間はまだしばらく後だ。今私がすべきことは仕事。この書類を持って行くことだ。


「まとめた資料を持ってきました」


 本部のテーブルの上に書類を置く。みんな疲れているのか、どうにも空気がどんよりしている。ここにいる人たちも、頑張ってくれているのだ。


「お嬢ちゃん、ありがとうね。散らばった資料をまとめるのも私たちの仕事なんだけど、どうにも手が回らなくてね……」


「なんであんなにバラバラなの?」


 そう、そもそも資料がバラバラでなければこんなに大変なことにはなっていないはず。もう少し綺麗にこちらに送ってくれればいいのに。


「それはしょうがないんだよ。いろんな情報や知識が影響し合っているからね。どうしても検証なんかのために資料を重ねて見る必要があるんだ。普段はこうじゃないんだけどね」


 頑張っているのはレイだけではないみたいだ。今まであまり気にしたことがなかったけれど、ここには国や世界のために働いてくれている人がたくさんいるのだ。


「私も手伝うから、お姉さんは解決策を見つけてね。レイも、頑張ってるから」


「レイ、えーと……アーツ行政官の部下の方ね。彼には大きな負担をかけてしまっているものねぇ。お嬢ちゃんのお友達のためにも、私も頑張るわ」


 またね、と手を振って部屋を出る。私も急いで戻って、次の仕事をしなければ。早足で歩いていると、食堂の前に立っていた料理長のおじさんに呼び止められる。


「嬢ちゃん、お手伝いかい? ここのところ慌ただしいもんなぁ!」


「うん。頑張ってる」


「そんじゃ、栄養補給だ。ほれ」


 おじさんが差し出してくれたのは、干し果物が練り込んであるパンだ。固めで食べ応えがあるし、表面にまぶしてある砂糖が甘くておいしい。


「俺ぁこれくらいしかできないからなぁ。これで頑張ってくれよ!」


「うん。この甘みがあれば、三日は働ける」


 三日は言い過ぎかもしれないけれど、甘いものを食べると元気が出る。あの紙の山を更地にしたら、きっと何かが変わる。そう信じて頑張ろう。

次回、480:あるかもしれない未来のために お楽しみに!

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