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478:残された少女

 レイは行ってしまった。私が頑張らなければいけないところなのに、いつの間にか前に出て、先に行ってしまった。


 レイはいつもそうだった。私が役に立とうと思うと、不安そうな顔をする。守ろうとしてくれているのはわかる。でも、私も守られてばかりでは嫌だ。


 そう思うだけならいくらでもできる。でも、それを本当に実行するのは難しい。レイは強いから。いつもみんなの先頭に立って、どんな敵でも倒してきた。


 だから、私もレイに並べるように、レイを楽にさせられるように、強くなりかった。


 レイがいなくなってからたくさん頑張って、上手くいったと思った。レイみたいに素早く動いて、銃を撃って、前に出て戦えるようになった。でも、それも勘違いだった。


 久しぶりに会ったレイには強い意志があって、立ち塞がるモノ全てを吹き飛ばしてでも進みそうだった。その勢いに、私は勝てなかった。


 そしてまた、安全な場所にいる。嬉しかった。安心した。けど、またレイが犠牲になった。


 レイはきっと強いから、生きて帰ってきてくれる。でも、私の気持ちはそのままだ。何も役に立てずにここにいるだけの私にはなりたくない。


 だから、考える。レイのために、今私ができること。


 亀裂を閉じる方法を見つければ、レイの仕事は終わる。でも、私にはそんなことはとてもできない。ハイネの友達みたいな頭のいい人じゃないと、そんなことはできない。


 私が亀裂を一時的に塞ぐこともできる。でも、それはきっとレイを傷つける。最後の手段にとっておこう。


 レイを支えるために、できること。


「あ……!」


 王都と連絡をしているアーツのところに走る。明日には王都に戻るようだし、その前に話をしておいた方がいいはず。


「アーツ、ちょっといい?」


「おや、どうしたのかな」


「私に、王都のお仕事の手伝いをさせて」


 レイに物資を送ったり、亀裂を消すための情報交換をしているのは王都だ。お姉が中心になって対策用のチームを作って、異変対策のために動いている。あそこで働いている人を手伝えば、レイを助けることになる。


 美味しいご飯を作るために、美味しい材料を作るのと同じ。いろんなことはつながって、どこかにたどり着く。レイが亀裂を守るのも、またどこかにつながる。なら、私はレイにつながるどこかを助けたい。


「構わないよ。でも、専門的な知識も、書類や情報を取りまとめた経験もない君ができることなど高が知れている。それでもやるかい?」


「うん。私も、私にできることをしたい」


 そう言うと、アーツはにこりと笑う。お姉が王様になってから、アーツはいろんな顔をするようになった。アーツは気が抜けていると言うけれど、私はこっちの方が好きだ。


「幼い子にここまで言われちゃうんじゃ、俺もまだまだ頼りないね。……いや、君はもう立派な部下か」


「任せて」


 気が抜けたように笑うアーツに、親指を立てて「大丈夫」とアピールする。


 アーツもレイと同じだ。いつも他の人のことを考えて、誰かのために全部背負おうとする。お姉も言っていた。私が手伝いたいのは、レイだけじゃない。アーツも助けてあげたいのだ。本人はわかっていないみたいだけれど。


 それから少し王都と相談したようで、私はハイネの補佐として動くことになった。ハイネと二人で動くのなら心強い。


 レイの真似をして、ぺちぺちと頬を叩いてから馬車に乗る。「力が出てくるまじないみたいなモン」とレイは言っていた。本当に力が出るかはよくわからなかったけれど、なんだかやる気が湧いてきた。


 私はもう置いていかれない。守られて、安心しているばかりのリリィはおしまいだ。守られたら、私も守って返す。レイすら追いつけずに、見失ってしまった彼女のように。


 私の目標そのものだ。大きな力を、誰かを護るために使う高潔な聖女、ミュラのように。彼女のように、私もなれたなら。

次回、479:領域外侵攻対策委員会 お楽しみに!

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