表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/758

46:虚像神聖高楼5

「はー、結構高いところにあるんだねぇ」


 緊迫した空気を間の抜けた声が叩き壊す。通路に転がっているディナルドを蹴飛ばして脇によけながらキャスがこちらに近づいてくる。両手に抱えた大きな荷物は俺の私物のようだ。置いてきてしまった刀や銃、宿で脱いできた服と追加の装備やとりあげられたであろうホルスターに収まっていた銃もある。


「女よ、それ以上動くでない」


 振り向きもせずに教皇がキャスを制止する。魔力の帯の余波が鼻先を掠めていくのにも関わらず少しも動じない。なんだかんだで俺とは別方向ではあるが修羅場をくぐってきただけはある。


「それは困るなあ。来る途中にもう二人使っちゃったんだ、ここで最後の1人まで消えちゃうのは嫌だよ」


 まさか分身を3体も使うとは。いくら魔力特性が適合していようと生物の鏡写しを造るのは身体への負荷が大きい。莫大な量の魔力と大量の情報、それを同時に処理すれば身体が保たないのは当然とも言える。リリィのように魔力の過剰消費で発熱するとか、そんなレベルではない。


 一人でも大変なものを三人分複製できているということはキャスは何らかの理由で適性以上に何かが行使に影響しているのだろう。傍にはきっとハイネがいるのだろうし、キャスの安全はあまり心配しなくていいだろう。


「カイルは無事か?」


「もちろん。あんな鈍い弾当たりやしないさ。それより仲間の心配ができるようになるなんてレイ坊も成長したねぇ」


 キャスがにやけた顔で囃すように俺を見る。キャスの言う通りだが、こんな風に言われると照れ臭い。「レイ坊」というあだ名が妙に合ってしまっている気がしてどうにもくしゃみが出そうで出ないときのような、むずむずとした気分だった。


「警告はした。聞き入れないようだから排除する」


「レイ坊、降りろッ!」


 教皇の宣告と共にキャスが叫ぶ。同時に投げられた荷物をキャッチすると処刑台から飛び降りる。落ちたら大けがの高さだが、壁に足をついてできるだけ減速しながら落下する。足元には民衆が群がっているが、とりあえずは着地直後に戦闘を再開して邪魔な分だけ斬っていくしかないか。


 キャスに向かって魔力の嵐が放たれる。風の一部と化した魔力は刃のように鋭く、布のようにうねって襲い掛かる。しかし、その嵐はさらに大きな爆発によって吹き崩された。


 火薬や気体での爆発ではない。魔術的な爆発か。鮮やかで少し透き通った、いつかどこかの貴族の館で見た北方の海を彷彿とさせる水色だった。あの爆発は魔炎石だろうか。魔力に反応して炎上する性質があり、ある程度の量に一度に火が付くと爆発する。まさかキャスはあれを中に仕込んでいたのか。


 今の規模の爆発であればさすがの教皇も無傷ではいられまい。処刑台がまるまる吹き飛ぶほどの威力だ。あれは衣服に付呪できるだけの魔術では許容できない。


 上方の確認を止めて刀に巻いてある布をほどく。鞘は俺の腰につけられたままだったから巻き付けたのだろう。別に名刀という訳ではないが、切れ味はかなりのものだと自負している。複製キャスが抜き身の刀を持ち歩いて損傷でもしたら堪ったものではない。連戦でかなり損耗しているとはいえ人を傷つけるには十分すぎる鋭さだ。


 着地と同時に一閃。ある程度体力も戻った状態だ、教皇庁内部に戻るまでならば丸腰の民衆など戦力的には物の数にも入らない。全員殺して回るのは少々心苦しいため、基本的に殴打で人混みをかき分けて教皇庁へ入る。


 やはり何かしらの抑止力が働いているのか、彼らは教皇庁まで入って来られない。規則を完全に順守させるという儀式魔術の影響がこちらに有利に動いてくれたせいで助かった。この通路の中を追い回されたりしたら頭がおかしくなりそうだ。


 俺の記憶と感覚が正しければ、爆発を喰らった教皇のシルエットはさらに上に飛んでいったはずだ。教皇庁は何階かごとに一フロアのサイズが少しずつ狭まり、段々になっている。処刑台もその段差を利用したものだ。上空に向かったとなれば処刑台のあった階かそれより上の段差が有力だ。正確な階層は知らないが部屋自体が狭くなるおかげで変化が分かりやすくて助かる。


 階段を駆け上がって処刑台跡をこっそりと覗く。ドアが衝撃で壊れてくれていたために確認は容易だった。見たところ教皇はおらず、いるのは倒れたディナルドだけ。カイルの大型の銃による狙撃が二発も直撃したうえ、キャスの大爆発まで無抵抗に受けたものだからダメージはかなりのもののように見える。


 この階にいないということはおそらく一つ上の段差の階。再び階段を駆ける。


 やけに見覚えがあると思ったら教皇の部屋の一つ下の階だった。ここにはもはやドアはなく、ただの質素な窓があるだけだ。誰に見られるわけもなく、飾る必要もなかったのだろう。銃を逆に握り、持ち手の部分で窓をたたき割る。


 ごお、と風が吹き込む。ガラスの破片がいくつか風に乗ってこちらに飛んできて頬を切る。割り残したガラスに気をつけながら外に出ると、床の端の方に教皇が倒れているのが見えた。白装束はところどころ焼け焦げ、肌には爛れが見える。常人ではないとはいえ、老人の身体でこのダメージは致命傷にも近いだろう。


 教皇は見つけたが肝心の聖遺物が見つからない。辺りを見回してもそれらしきものはないし、下を覗いても落ちてはいない。教皇が隠したとも考えられるがそれにしては移動した跡がない。火傷による出血は多いはずなのに、床は落下した時に飛び散ったであろう血しかない。


 俺が目覚めるのが遅かったせいで既に夕方。ずっと分厚い雲がたちこめているせいで暗かったのがさらに見づらくなってしまった。いやむしろあれだけの輝きを放つ剣ならば暗い方が探しやすいか。


 しかし、いくら探しても光どころか魔力の気配すら察知できない。実際【奉神の御剣】は魔力を解放しない限りは一つの物質として落ち着いているために異常なまでの魔力は察知できない。


 信徒が聖遺物を持ち逃げするわけはないし、落下して壊れたのなら魔力が爆発を起こして気が付くはずだ。キャスはおそらく身体への負荷で動くことができないし、ハイネもそのキャスについているだろう。カイルはライフルを携行しているからこれ以上重いものを持つのは難しい。ハイネとキャスが動けないとするとあと聖遺物を持ち出せる人間は1人しか思いつかないが。


「でも、あいつは……」


 呟いたところで嫌な予感がして振り向く。白亜の塔の頂上に君臨していたのは、血みどろの悪鬼だった。聖遺物を支えにして何とか立っている。飛び上がるには高いが階段を上がると時間がかかる。


「おいディナルド、お前何するつもりだ?」


 傷だらけの顔で笑いかけるだけで、何も言わない。そのままふらふらと立ち上がり、天に向かって【奉神の御剣】を掲げる。


「呼応せよ、顕現せよ、降臨せよ。大いなる力以て呼びかけるは地上の只人。過ぎし日を超えし者、輪廻の孤島に住まう因果の子よ、我の光に応じよ」


 詠唱の内容的には召喚術。しかし召喚には聞いたことのない単語が多すぎる。ディナルドが呼び出そうとしているのは魔獣や英雄の影などではない。一人の人間には手に余り過ぎる神代の代物、「ヒト」という枠組みを外れた横暴なまでの神性を持った、力の権化だ。


 詠唱に応えるように神殿の頂点が光り出す。それだけではない。皇都から離れた城塞都市も、同じように輝きだしている。そしてその光はそれぞれが手を結ぶように輝く線で結ばれる。その光の線は空を流れる星の河のようだった。どんどん輝きを増していく神殿の光。ついに限界に達したのか、空に伸びる。


 眩い光は雲を割りながらどんどん空へ伸びていく。その勢いはすさまじいもので、皇都上空を中心に放射状に雲が晴れていっている。星が、月が現れる。国を丸ごと使った召喚術。ならば神代の怪物を呼び出すことも叶おう。


「私が今呼び出したのは『超越者』!神話の大戦において圧倒的な力を持ちながらも輪廻の狭間に身を隠した、正真正銘最強の存在だッ!」


 『超越者』、あまりにも有名な存在だ。神話の最初期にのみ登場する最強と呼ばれる人間。神に非ずとも神を超えたとされる謎の存在。そんなものを、ディナルドは召喚しようというのか。


「召喚物は召喚者のモノ、『超越者』の力で俺は世界の頂点に立つ!」


 この男は、どこか壊れている。召喚物は召喚者のモノ、それは基本的な原理ではあるが、一定以上力の差が開いた場合それは適用されていないことを知らないのか、気付かないふりをしているのか。呼び出しさえすれば、自分がその力を手に入れられると妄信しているのだろう。ディナルドに従おうが従うまいが召喚されてしまっては手遅れだ。


「なあ、最後にこれ読んでくれよ。ジェイムからのメッセージだ。多分、お前らにとって大事なことが書いてあるんだと思う」


 なぜかジェイムが俺に託した紙。俺は絶対に開封してはいけないというよくわからないメッセージを残して渡された。ピンチの時に相手に渡せというくらいだから何か崖っぷちの交渉に使える材料か何かなのだろう。


 沈黙が流れる。各地で光が飽和し溢れる中光を背負ったディナルドがジェイムの手紙を読み進めている。


「これは……!」


 ディナルドが呻きのけぞった瞬間、紙が紫色に輝きだす。


予想以上に一話が長くなったせいで(時刻的な意味で)少しおそくなってしまいました。

いい感じに進んでおります、PVの完成はエピソード完結後になってしまいそうですが報告するので見ていただけるとありがたいです!


今回もありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ