463:瞳、想う
「で、リーダーの仕事をあらかた任せてもらえるようになってしばらくしてから急に死んじゃったよ。未だに俺たち、先代に追いつけた気はしないなぁ」
そう言って、モルガンはからからと笑う。恩人と違って安らかに死ねたのだから、まだ幸せな方だったのだろう。
モルガン、というか先代の話によれば先代の恩人らしき人は王都東部ギルドの元幹部。暴走するリーダーを諌め、処刑されたのだとか。
だからこそ先代は当時のリーダーを密かに殺し、そして自ら恩人の本懐を果たした。今でこそ愛されている王都東部ギルドも、多くの覚悟の上に成っていたのだ。
「それで、結局俺と先代のどこが似てるんだ?」
じっくり話を聞かせてもらったが、どうにも俺と先代の共通点が見つからない。俺よりも、歳のせいかもしれないがジェイムとかに似ている気がするのだが。もっとも、モルガンはジェイムを知らないが。
モルガンはしばらく首を捻っていたが、突然飛び上がるように立ち上がり、そしてぱっと目を開ける。
「目だよ、レイ!」
「目……?」
大きく、丸く開いたモルガンの目のことではなさそうだが。
「先代とレイ、なんだか目が似てるんだ。なんていうか、迷いのない目って感じ?」
やっぱり俺にはわからなかったが、とりあえずモルガンが納得できたようでよかった。それにしても、「迷い」か。俺も先代リーダーのように、迷いなく選択できればいいのだが。
覚悟を決めるのと、それを実行するのは話が違う。いざその時になって覚悟が揺らぐなんてことはざらだ。そんな時が来ないのが一番だが。
「あ、ずいぶん時間とっちゃったね。ごめんごめん」
「いや、面白い話だったよ」
どうせ、他ギルドの拠点を落とすにはしばらくかかるのだ。ここで数時間潰したところで特に大きな影響が出るわけでもない。むしろモルガンの昔のことが知れてよかった。
とりあえず、今日は解散だ。白装束で城に入るわけにも行かないし、普段着に着替えてからギルドの詰所を出る。
「目……か」
王都での戦いのあと、俺の左目はずっと沈黙している。今までの通り光は放っているのだが、その力はどうにも感じられない。
だが、それでいて彼女の力が完全に消え失せてしまったようには思えないのだ。今はその時ではない、ということだろうか。確かにあの時のような危機に瀕しているわけではないが。
失った時間を求めるほど虚しいことはない。いつまでそう思っていただろう。養父を思い出す暇もなく、ただ今を生きるために生きていた。
「ミュラ、お前は今、どこにいるんだ……?」
死んだ後のことは、死んだ人間しか知らない。魂だけになって生まれ変わるだとか、別の世界に行くだとか、迷信の類はいくらでもあるが、証明できた者はいない。
だが、その迷信たちが生まれる理由は少しわかった気がする。皆信じたいのだ。俺も、この瞳の中にミュラが居て、船の上での戦いのように俺を守っていてくれていると信じたい。
彼女と、その盾の側にいると、誰も俺のことを傷つけられないような気がして、安心した。俺を守るために戦ってくれたのは、彼女が初めてだった。
モルガンの話で少し気付いたことがある。俺がここまでミュラの背中を追いたくなるのは、彼女が死んでいるからなのだ。もう出会えないから。
話したいことが、伝えたいことが、後悔が、なくならないから。むしろ増えていくから。その心の重みを、少しでも減らしたくて死者を求めるのだ。
モルガンもきっと同じだ。先代リーダーに託されたギルドを、この王都を守らなければという意識に追われている。
だから、想う。モルガンは、この戦いが終わったら少しは心の荷を下ろすことができるのではないかと。死者に残された呪いに、決着をつけられるのではないかと。
これから訪れる決戦、絶対に勝利する。これは、ただ国の裏側を蝕むギルドを滅するだけの戦いではない。モルガンに、アクベンスに、エリアスに、闇の全てを背負わされた彼らの呪いを解くための戦いだ。
次回、464:裏面滅消決戦 お楽しみに!




