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462:人面獣心

 馬車の影からの声。その声の主は、ゆっくりと姿を表す。


「リーダー……」


 リーダーは、穏やかに笑いながら念写機を眺めている。まるで、カフェか何かのような落ち着きぶりだ。軍人も護衛の男も一瞬驚いたようだが、すぐに魔術の構えに入る。


「動くな。この場を見た以上お前には死ん────」


「さて、こう使うのかな?」


 俺たちと軍人の男、それから護衛と商人が入る構図で念写機を起動するリーダー。紙が焦げるような音がして、写し出された念写がひらひらと地面に向かって舞う。


 次の瞬間、三人の男は全員【魔弾】で胸を撃たれていた。軍人も、護衛も、商人も、ほとんど同時に。


「迷いましたね。私と念写、どちらを先に処理すべきか。あと1秒決断が早ければ、撃たれることもなかったでしょうに」


 すごい。1対3、一人は戦いが専門ではないとはいえ、人数で劣っていたのに一瞬でそれを覆してしまった。相手の行動を誘導する手腕もそうだけれど、あの魔術の起動、目で追えないほど早かった。


「ありがとう、リーダー」


「さて、今解くから待っていなさい。帰ったら治療もしないとね」


 助かった。これなら、爆破魔導具も回収できる。ほっとして視線を先の方に送ると、恐ろしい光景が目に入る。


 軍人の男が立っているのだ。そうだ、そういえば軍服には魔術防護の付呪がされている。致死の【魔弾】が、少し痛い程度の威力にしかなっていないのだ。


 恐怖は、人を殺す。「危ない」の一言さえ、俺は発することができなかった。このままでは、リーダーが死んでしまう。


 轟音。一瞬耳が痛くなるほどの音で、一瞬理解が遅れる。結果的に倒れていたのは、軍人の男だった。おそるおそるリーダーの方を見ると、その手には細い煙を吐く銃が握られていた。


「目標が一つに定まった人もまた、与し易いものです。魔術の効きが悪いのも織り込み済みですよ」


 小さくため息を吐くと、今度は手際よく俺たちの拘束を解く。さっき手間取っている様子だったのは、どうやら軍人を騙すための演技だったらしい。


「さて、こちらにも止めを刺しておこうね」


 そう言うと、リーダーは商人と護衛の胸を銃で撃ち、絶命させる。このまま縛っておいても逮捕されただろうに、わざわざ殺しまでしなくても。


 エリアスもアクベンスも、そう言いたげな顔をしている。俺たちは正義を守るギルドだ。悪人を殺して回りたいわけではない。


「この男、憲兵に身内がいるんだ。金もあるし、きっと逮捕されても今回の件を黙っていることと引き換えに、すぐに釈放されていただろうね」


 俺たちの言いたいこともお見通しか。商人の男の魂胆に、ゾッとする。まさか、そこまでわかってこの取引に及んでいたのか。一流は失敗した時のことも考えて計画する。本で読んだ気もする。


 リーダーは、そこまでわかっていて殺したのだ。これが、影の正義の防人、ギルド。ただ悪人を懲らしめて、それで終わりなんていう甘い世界ではなかったのだ。


「私も多くの部下を抱える身だ、甘さや迷いは私以外も傷つける。時に、こうして冷酷になる必要があるものなんだよ」


 やっとわかった。皆がリーダーを尊敬し、従う理由が。決して、強さや派手さだけが人を惹きつけるわけではないこと。正義のために、俺たちのために迷いなく選択する覚悟と強さを持っていること。


「こんな話をした後だけどね、私は君たちにこそギルドを継いでもらいたいと思っているんだ」


 その言葉は、今はあまりにも重かった。ギルドの長としてどうあるべきか、それをここまで見せつけられて、自信を持ってリーダーを継ぐことなんてできない。


「エリアスは、真面目で仲間の前に立つ勇気がある。アクベンスは、観察眼に優れていて賢い。そしてモルガンは、正義を信じ常に問う姿勢がある。君たち全員がギルドの未来に必要な素質を持っているんだ」


 それからリーダーは、馬車から目ぼしい魔導具を抜き取ると、懐に仕舞う。いくつか気になるものがあったようだ。


 代わりに取り出したのは、いつもの煙草。仕事終わりの一服というやつだろうか。ふと、その目がいつもと少し違うことに気付き、いつか忘れてしまった質問を思い出す。


「ねえリーダー、なんでいつも、煙草吸ってるの?」


 俺の質問にリーダーは一瞬驚いたようだったが、すぐにいつもの穏やかな顔に戻り、そしてにっこりと笑う。


「私がギルドに入るきっかけになった、恩人の真似だよ。もっとも、私がギルドに入った時には、既に亡くなっていたがね」

次回、463:瞳、想う お楽しみに!

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