459:最後の仕上げ
「良い感じにギルドっすねぇ〜!」
「うん。これならバレない」
モルガンの要請を受け一度解散した俺たちは、夜中に再集合していた。全員が真っ白い服を着て、そして顔を覆い隠している。
モルガンは、王都東部ギルドと俺たちの関係を知られたくはないらしい。それはこちらも同じことだが、まさかその対策がこれとは。
しかし、これならば俺たちも王都東部ギルドの一員にしか見えない。あとは戦闘スタイルを隠せばなんとかなるか。
とはいえ、どうにも個性的な戦いをする面々を揃えてしまった。俺たちのことが世間に広く知られているわけではないが、刀など振り回せばどうしても目立ってしまう。
「で、横合いを叩いて旨いところだけ掠め取ったのか」
東部ギルドの詰所には、バラバラに購入した兵器が少しずつ運び込まれている。資金は北部ギルドから奪ったものだ。
最初に爆破した拠点を、遊撃隊が包囲。それに対し持てるだけの金を持って逃亡に成功したメンバーを襲撃して金を奪ったのだ。
「北部の店から買ったし、ちゃんと彼らに還元できてるよ」
俺たちの服も北部で買って、代金はモルガンたちが奪った金で肩代わりしてもらったのだ。文句は言うまい。
俺たちがモルガンに注文したのは大量の、魔力が籠った宝石だ。俺が魔術師だと偽装するためにはこれくらいは必要なのだ。金がかかって仕方がない。
あとはこれを魔導具にセットすれば、俺も立派な魔術師、というか魔導具使いだ。誰も貧民街の『魔力無し』とも王城のレイとも思わないだろう。
「最初の拠点をきっかけに、どんどん北部の拠点が摘発されてるね。南部もそろそろ手をつけようか」
モルガンの合図で、アクベンスが詰所を出ていく。何をするかは知らないが、とりあえずは任せよう。
「僕たちの出番は敵を追い詰めてから、で良いんすよね?」
「うん。鍵は昼間お嬢ちゃんが言ってた『西部』なんだ」
どういう意味なのか聞いてみたが、その時がくればわかるとはぐらかされてしまった。そう言われると余計に気になるのだが。
「レイ、とりあえず新しい武器使ってみようよ」
確かにリリィの言うことももっともだ。とりあえず、連射型の銃を引っ張り出して構える。
宝石を嵌め、機関を起動させると引き金を引く。激しい反動と共に弾丸が壁に突き刺さる。連射速度こそ遅いが、大量に弾が込められるし、大人数を制圧するには良さそうだ。一つ問題があるとすれば……。
「やっぱ、魔力切れが早いな」
弾を発射する、という手順を何度も何度も繰り返すため、魔力の消費が激しいのだ。一度起動すれば良いというものでもないらしい。序盤に使い切って、早々に放棄するのが良さそうだ。
「これは時限爆弾、こっちは発煙筒。あとこれは燃焼機だな」
頼んだものを服のポケットに入れ、どれくらい入るか試してみる。動きに支障が出ない程度に詰め込んでおきたいし、事前に調べておくのは案外大事だ。
「リリィもやっておくんだぞ」
「うん、わかった。まずは鞄に付呪してもらわないと」
普段使っている鞄を使うわけにはいかない、と新しい鞄を調達したが、今のままではハリボテだ。しかし、こんな時に役に立つのが彼。
「付呪は苦手なんだ。今度からはプロに頼んでくれよ、お嬢さん」
「わかった。そうする」
そう、防護魔術に適した魔力特性を持つエリアスだ。付呪が苦手でも、その特性と経験は苦手をカバーして余りあるものだ。
「アクベンスから連絡が入ったよ。成功だ。やったね」
にこやかにモルガンが告げる。彼らが本気だ、というのもあるのだろうが、作戦は順調だ。この攻められ方は、どのギルドも考えていなかったのだろう。
自分達は生き残る気がなく、ただ滅ぼすためにあらゆるものを利用し向かってくる敵。それほど恐ろしいものはない。しかも、破れ被れの特攻ではなく覚悟を決めた冷徹な作戦なのだ。付け入る隙がない。
「俺たちの出番はいつ頃になる?」
「ま、1週間はかかるでしょ。いくら遊撃隊が優秀とはいえ、大手ギルドの支配は根深い。簡単には食い尽くせないはずだよ」
拠点の数から言ってもそうなるか。さすがの遊撃隊もうまく制圧できたところで、すぐに次の拠点を攻められるほどタフじゃない。というか拠点をいくつも連続で落とせる部隊なんてほとんどないだろう。
「じゃ、俺は出番が来るまで準備させてもらうぜ。刀無しの戦闘にもまだ慣れてないしな」
なんてことのない台詞のはずなのに、モルガンはどこか可笑そうに笑う。そんなに変だっただろうか。
「いや、ごめん。なんだか急に先代を思い出しちゃって。顔は全然似ていないのに、どうしてだろう?」
先代、モルガンの前の王都東部ギルドのリーダーということか。一説にはこのギルドを立て直したとも言われているが、その正体はあまり語られない。
「どんな人だったんだ?」
「そうだなぁ、先代はね……」
次回、460:飛花落葉 お楽しみに!




