458:ギルドとギルド
「ほとんど人がいないな。非番か?」
「いや、王都東部ギルドは実質解散したんだ。住む場所が決まってない一部メンバーを除けば、全員元の生活に戻ってもらった」
ギルドメンバーはギルドの仕事が日常だと思い込んでいたが、そうではないらしい。周辺の住民の寄付だけでなく、足りない部分は近隣の店で働くことで活動資金を賄っていたのだとか。まさに自警団、という感じだ。
前ここに来た時は、戦闘中で騒がしかったから違和感がある。ここまで人も少なく、静まり返ったギルドの詰所があるとは。
「それで、どうやって北部と南部のギルドを叩くんすか?」
会議室に全員が座ると、カイルが口を開く。攻撃に協力すること自体は構わないが、ある程度の計画が必要だ。なにせ彼らは物量と頭数に優れる。無策で突入しては苦戦を強いられることになる。
「最終的には実力行使だ。だがその前に、『国』を使って戦力を削ぐ」
そう言ってエリアスがテーブルに広げたのは、細かくメモが書き込まれた王都の地図だ。建物に印と数字が書いてある。
おそらくこれは北部、南部ギルドの拠点と、その規模だ。支配地域の各所に戦力を分散させているのか。これだけ調査がされているならば、きっかけさえ作れば軍を動かせる。
そしてそれは、彼らもわかっているようだ。モルガンの腕には、起動済みの魔力が宿っている。
「とりあえず、第一段階だ」
モルガンが指を鳴らす。何も聞こえないが、戦いが始まった合図なのは確かだ。それに合わせて、エリアスが地図の一箇所にバツ印を描く。
「まずは北部の商業拠点。金が強みの奴らの背骨だ。と言っても、背骨が何本もあるのが厄介なんだがな」
金策を得意とする北部は、表立った行動を避け少しずつ勢力を強めてきた組織だ。傘下にいくつもの商会を持ち、取引の中で少しずつ新たな店を取り込んでいく。
エリアスがバツ印をつけた拠点は、傘下を取りまとめ一度金を一挙に集めている場所のようだ。ここを潰せばお得意の金の流れを抑えることができる。
「結局、ここに何をしたんすか?」
「モルさんの遠隔共鳴で爆破魔術を起動させた。少し前に協力者に通報させたから、すぐに遊撃隊の精鋭が包囲するだろう」
なかなか苛烈だ。やはりモルガン、明るく奔放な性格のように見えるが、その実凍えるような冷酷さと鋭い判断力を持っている。
もはや、俺たちは必要なのだろうか。彼ら3人はなかなかバランスの良いチームだ。俺たちが介入するまでもなく、勝ててしまうのではないだろうか。
だが、頼られた以上どこか俺たちが必要になる部分があるのだろう。今はその時を待つことにするか。
「ねえねえ、西部にギルドはないの?」
リリィがぱたぱたとテーブルを叩く。そういえば、リリィは知らないことかもしれないな。南部ギルドと張り合ってきたカイルや、暗部に長く浸っていた俺と違って、リリィはギルドについて知ることはあまりないだろう。
「西部ギルドはあったんすけど、50年前くらい前だったっすかねぇ。存続できなくなって解散したらしいっすよ」
そう。王都西部は戦乱の不安が高まった時に空になったと養父が言っていた。
あの大国、ガーブルグ帝国と戦争が起これば、諸侯軍では太刀打ちできない。王都防衛戦が始まった場合真っ先に割を食うのはガーブルグ帝国に最も近い西部だ。
そうして生まれたのが、現在ゴーストタウンと呼ばれる地域。人がいなくなれば、収入を住民に頼っているギルドは存続できない。解散は必至だろう。
「残党は10年くらい活動を継続しようとしていたみたいだけどね。北部や南部の影響下では満足に活動もできまいよ」
そう言うモルガンの目は、少し悲しそうだった。まもなく全てが終わる、自分の組織と重ね合わせているのだろうか。
考え方によれば、新しい国の制度に追いやられると言っても間違いではないのだ。自分で選択したこととはいえ、原因は新しい制度にある。
モルガンがそれを悪く思っていないのが不幸中の幸いか。どう足掻いても、もう動き出してしまった。戦いは止められない。
「じゃあ、次の段階に移ろうか」
次回、459:最後の仕上げ お楽しみに!




