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457:王都とギルド

 俺たちの隣のテーブルに座ったモルガンは、奥の女将に声をかける。


「おばちゃーん! 肉団子3人前!」


「モルちゃんたちだね。あいよ〜!」


 肉団子か。なかなかわかっている。ここの肉団子は表面がちょっとカリカリしていて、それでいて中は肉汁で溢れている。濃いソースと相まってボリューム満点だ。


 カイルが少し考えるような顔をしてから、テーブルの上の皿を見て軽く首を振る。俺もその判断が賢明だと思う。


 確かに目の前で肉団子なんて頼まれたら、俺だって頼みたくなる。だがこの量に肉団子は致命的だ。確実に腹が破裂する。リリィはわからないが。


「ここ、レイたちもよく来るの?」


「まあな。いつもは昼時に来るんだが、今日は予定があってな」


「それで会わなかったわけかぁ。世界は狭いね」


 そういえば、ここは王都東部ギルドの拠点からも近い。美味くて安いし利用するのも頷ける。


 以前聞いた、モルガンの覚悟の話。全てを終わらせここを離れると言っていたが、一体いつになるのだろう。俺も可能ならば協力したいし聞きたい気もするが、ここでは流石に憚られる。


「皆さんお仕事の調子はどうっすか? 実家じゃギルドの人を見なくなったって噂っすけど」


 カイルは通話宝石で実家のアイリスと連絡を取っているのだったか。道理で妙に国外にいたのにこちらの事情に詳しいわけだ。


「ウチは大助かり、他は大わらわってトコだな。悪どいことしてるヤツらから順に捕まってる」


「態度のせいでお前も疑われていたがな、アクベンス」


 エリアスの指摘に、アクベンスは諦めたように笑う。確かにエリアスの言いたいことも分かるが。相棒が妙に真面目そうなせいで余計にアクベンスが不良じみて感じるのも仕方ない。


「最近パトロールが増えたもんねぇ。これも陛下のおかげかしら」


 ついに女将が椅子を持ってきて、俺たちのテーブルの間に座る。厨房の片付けも大体終わって暇になったのだろう。


 遊撃隊の巡回を強化するとかいう書類は、アーツの執務室で見た気がする。部隊の編成を大きく変えて倍増した仕事量に対応できるようにする、とかそんな内容だった。


 とりあえず、安心してモルガンが全てを終わらせることができる環境に近づいているということでいいのだろうか。彼は俺たちに、キャスにこの国、そして王都に住む人々の平穏を託した。彼らが守ってきたものを託してくれた。今回の遊撃隊の再編は、その第一歩だろう。


「でも、モルちゃんたちがいない地域は締め付けが厳しくなったって噂でねぇ。なんとかならないもんかしら」


「安心してよおばちゃん、俺たちがなんとかするから」


「あらそう? 助かるけど、無理するんじゃないよ」


 他の地域、南部と北部のギルドの影響下にある辺りか。魂胆はわからないが、各商会、商店に圧をかけて、今のうちに稼げるだけ稼いでしまおうという算段だろう。


 ギルドの主な収入源は、特に商業を営んでいる市民だ。そもそもギルドが自警団でありながら商会の用心棒も兼ねていたらしいし、その名残なのだろう。


 だが、その精神が残っているのももはや東部ギルドだけ。他は武力で一定額の納入を強制しているとか。


 今となっては東部ギルドが異常というべきなのだろう。市民の厚意による寄付のみで組織を成り立たせている。この食堂もその一つ、東部ギルドに無償で食事を提供しているのだとか。


「ちなみにさ、レイってこの頃暇?」


「まあ、特にこれという仕事は入ってないな」


「じゃあ明日ウチに来てくれない? 話したいことがあるんだ」


 頷く。用件は聞くまでもない。北部ギルド、南部ギルドを叩き潰す手伝いをしてほしいということだろう。俺一人でどこまで戦力になるかはわからないが、ここは俺が成長したというアーツの言葉を信じよう。


「それ、私も行っていい?」


 食べるのに夢中で聞いていないと思っていたが、ばっちり耳に入っていたようだ。リリィがひらひらと腕を振って立候補する。


「嬢ちゃん、別に集まって遊ぼうってワケじゃねえんだ。強ぇのは知ってるが、遠足気分だと痛い目見るぞ」


「大丈夫」


 釘を刺すアクベンスの目を、しっかりと見返すリリィ。「そんなことはわかっている」と、視線が言っている。


「なら、これからみんなで行くっすよ! 僕もお手伝いするっす!」


 リリィよりも軽い調子で手を挙げるカイルに、アクベンスもエリアスも呆れ顔だ。王都決戦時はみんな真剣だったから、イメージが違って驚いただろう。本来ウチはこういう組織なのだ。

次回、458:ギルドとギルド お楽しみに!

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