451:2枚の念写
「お前のおかげで、俺を取り戻せた気がする。ありがとうな」
「いえ、あの時は少々出過ぎた真似をしました」
そう応えるユニは、少しバツが悪そうだ。俺に色々と言ったことを相当気にしているらしい。俺としてはありがたかったのだが、こればかりはどうにもならないか。
「まだしばらく滞在するのか?」
「そうですね。皇帝陛下とクレメンタイン陛下に無理を言って、伸ばしてもらったんです」
熱心なことだ。まあ、俺たちもイゾルデの研究の進み具合によっては同じような状況になりかねなかったのだが。カイルは逆にクレメンタインに頼まれて追加で滞在することになっていたか。
ユニに別れを告げて部屋を出る。もう帰る準備はできているし、あまり遅れるとハイネに怒られてしまう。
やっと慣れてきたニクスロットの王城をしばらく歩くと、正面の大扉に辿り着く。もう荷物も積み込んで、すぐにでも出発できるという感じだ。
「せっかくですし、記念に念写でもいかがです?」
「いいですね!……ハイネ、一緒に映りましょ?」
イゾルデがハイネの上着の裾を軽く引く。リーンもなかなか小粋な提案をする。今回随分仲良くなったようだし、いい思い出になる。
足元に広がる一面の花と、遥か遠くの氷山。ここ以外では到底見ることの叶わない景色を背に、二人の少女はきらりと笑う。
それは、迅雷のように鮮烈で、刹那的で。雪より、花よりも、儚く煌めくものがあるのだ。それを収められるのだから、念写も便利なものだ。
「今紙に写しますからね」
ハイネ用とイゾルデ用、2枚の紙に念写を焼き付けると、それぞれに手渡す。同じものを受け取ったというのに、互いに見せ合っている。きっと、そこに合理や意味など必要ないのだ。
「じゃあ、そろそろ行きましょうか」
俺たちが装甲車に乗り込もうとしたそのとき、城内からなにやら騒がしい音が聞こえてくる。
「間に合ッ…………たぁーーーー!!!!」
扉を蹴破るような勢いで飛び出してきたのは、クレメンタインの側付、シャーロットだった。なんとなくこの騒々しい感じで察してはいたが。
ぜえぜえと息を切らしているシャーロット。そういえば今回は全然見かけなかったな。
「同盟で大わらわなんですよ〜。案外ボクってば優秀なので!」
余裕な様子だが、その表情には僅かな疲れが見える。普段の適当な態度で忘れがちだが、一国の王の側付を任されている人間なのだ。優秀でないわけがない。
「この前の書類の不備、徹夜で直したのは私ですけどね」
「り、リーンちゃあ〜ん……」
あれだけあった威勢が急激に萎んでいくのがあまりに可笑しくて、つい笑ってしまう。シャーロットはいい意味で変わっていないようで安心した。
「と、とにかく! 帰路もお気をつけてね! 今度はボクもアイラに行きたいなぁ」
「ああ、いつでも来てくれ。リーンも、約束したのにアーツを連れて来られなくて悪かったな」
俺の言葉にリーンがびくんと跳ね上がる。そんなに驚くことだっただろうか。会いたがっていたようだし申し訳ない。
「いえいえ!! 私もシャーロットちゃんと一緒にアイラに行きますから、その時にでも……!」
とりあえず、そこまで気にしていないようでよかった。実際アーツもキャスも国内のことで忙しそうだし、なかなか外に出られそうにない。特にキャスは俺たちですらなかなか会えないのだ。少し遠い人間になってしまったように感じる。
もし本当にリーンたちがアイラに来てくれることがあるのなら、その時は俺も少しアーツに我儘を言わせてもらおう。
もう一度礼を言って、装甲車に乗り込む。期間自体は短かったが、どうにもすることが多くて妙に長く感じた。結果的にはおおよそうまくいったし、成功と言っていいだろう。
「交流が盛んになれば、また来られますかね。今度は、ただの旅人として」
写真を見つめながら、イゾルデが呟く。イゾルデにとっていい思い出になったのならば、それが一番だ。その表情に少し寂しさを窺わせるイゾルデに、ハイネが笑いかける。
「絶対できるよ。また来ようね、イゾルデ」
次回、452:雷霆と少女 お楽しみに!




