表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
452/758

449:水の流れのごとく

「ま、そう簡単じゃないよね……」


「そうね。でもあと何日か滞在できるし、落ち込むことないわ。ハイネも手伝ってくれるんでしょう?」


「それはもちろん! ……雑用しかできないけどね」


 例の一件の後、イゾルデとハイネは急に距離が縮まった。やはり腹を割って話すというのは大事だと思う反面、俺とリーンの仕事は急激に減ってしまった。結構暇だ。


 話しているうちに道具の名前や作業工程を着実に自分のものとして、最低限手伝いができるようになってしまったのだから、当然と言えば当然だ。勝手がわかるハイネが担当するのがいいだろう。


「そういや、最近出撃要請がないが魔獣は出てないのか?」


「ええ、かなり落ち着いたようです。あとはカイルさんが八面六臂の活躍をしてくださったそうで。我々としても深い感謝を」


 ここ数日カイルを見ていないとは思っていたが、そんなことになっていたとは。撃てば当たる彼の射撃の腕があれば、弾を積んで国中走り回れば魔獣を絶滅させることも難しくないはずだ。そこまではしないだろうが。


「カイルさんにもお礼をしないといけませんね……」


 そういえば、カイルを見かけなくなったのは俺たちがここに来て何日か経ってからのことだ。もしかしたらイゾルデの時間を作るために頑張ってくれたのかもしれない。のほほんとしているようで、そういう気遣いはできるのだから憎たらしい。


 まあ俺が持ち得ないモノについてあれこれ言っても仕方がない。俺もカイルに飯か何か奢ってやるとするか。カイルが喜ぶものといえば、城から少し離れた通りにある店のオムレツとかだろうか。軽い礼にはちょうどいいだろう。


 各々自分の悩みに思いを馳せていると、軽快に扉が叩かれる。


「こんにちはっす! 調子はどうっすか?」


 扉を開けると、にこにこと笑ったカイルが立っていた。噂をすればなんとやら、といういやつか。とりあえず中に入って座ってもらう。


「宝石の取り外しっすか〜。最低でも二つ宝石がないと動かないっすし、川か滝みたいに放っておいても流れてくるような感じだと嬉しいんすけどね〜」


「川か滝……ですか……」


「素人の意見っす、イゾルデさんが最適だと思った方法がいいと思うっすよ」


 カイルも一通り試作品を試すことになったのだが、魔力を込めた宝石を付け替えて使わなければいけないという部分がネックのようだ。


 今まで俺たちは手間の面にばかり注目していたが、魔力親和性の高い宝石は安くない。このためだけにいくつも買わなければいけないのは親切ではないか。


 俺にはさっぱりだが、イゾルデは何かヒントを得たらしい。ぶつぶつ言いながら魔獣の血管と持ってきた材料を組み合わせている。


「ハイネ、魔力変換用のパーツを」


「えーと、これね」


 少しずつ組み上がっていくのは、最新の試作品とほとんど変わらない人工魔力回路。しかし少し違う。宝石を装着する場所がないのだ。


 その代わり、上腕と手の甲にあたる部分に妙な機構がついている。あれが新しい試みだろう。


「どう変わったんですか?」


「ええ、リーンさん。今までは宝石を利用し一気に魔力を流すことしかできませんでした。しかし半循環型の方式を導入したこれならば、特定の地域を除けば半永久的に……。いえ、まずは試してみましょう」


 ハイネが左腕を黒い布で覆う。幾度となく見た、試行と失敗の光景。だが今回は少し違う。そんな気持ちにさせてくれるのは、不安の中に一縷の自信を携えたイゾルデの表情だろう。


 起動した人工魔力回路の中を、わずかな魔力が流れていく。その流れも遅く、僅かだ。手の甲から順に光り出した回路は、10秒ほどで終点の上腕まで届く。


 イゾルデの表情が変わる。不安から、確信へ。祈りから、喜びへ。勝利を確信したかのような、自信に満ちた笑みに。


 急に光が強くなり始める。全く原理はわからないが、宝石を装着した時の7割くらいの量の魔力が流れているようだ。


「計算通り、成功です!」


 成功に湧き上がる中、ハイネは試験用の魔術を一通り試し、魔力の融通についても問題がないことを証明する。


「回路の中に魔力の『流れ』を作ることで、外部から自然に魔力を取り入れているんです。余剰な魔力はこちらから排出されるので、極端に魔力の少ない地域以外では運用が可能なはずです。流れができるまでに少し時間を要するのは課題ですが、及第点でしょう」


 随分高い及第点だ。だが、おかげでイゾルデの望む最低限のものは作れたようだ。


 それにしても『流れ』か。確かに川や滝、というより水か。カイルがここまで貢献していると、誇らしく、そして少し妬ましい気までしてしまう。


 ハイネと手を叩き合って喜んでいるイゾルデの表情には、勝利の笑みに隠れて、何か物足りないものを感じた。不満というよりは、まだまだやってやりたいと言うかのような、止められない好奇心の脈動。


 イゾルデはこちらを向くと、その意志に満ちた瞳をきらりと光らせる。


「あと、もう一つだけ作りたいものがあるんです。少し時間をいただけますか?」

次回、450:新兵器 お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ