423:最後の指導
応援の話は通っていたようで、ディーファ軍が攻めてきたのとは反対側の門から城塞都市に入る。二度と通りたくないと思っていた迷宮だったが、案内があれば案外スムーズに司令部まで行けるものだ。
「さて、敵の司令官はどこにいるかね」
アルタイルが敵軍を見渡す。今のところ城塞都市の防衛機構を利用して抑えられてはいるが、じわじわと詰め寄られているのは事実だ。
俺たちの目的は敵の指揮官を叩き、撤退させること。敵兵の数はかなり多いし、ここで未熟な兵士たちを抱えたまま正面衝突はしたくない。
こちらの戦力が十分に揃っていると誤認させられれば、とりあえず時間は稼げるだろう。この大軍だし、指揮系統はしっかりしているはず。だからこそ、逆に上を潰すとバラバラだ。
「かなり後方に陣取ってるな。ここからでも狙えるが、討ち取るにはちょっと守りが堅そうだ」
アルタイルの指す方には、確かに司令部らしき一団が見える。魔力障壁を発生させる魔導具や、本部の手練れらしき魔術師も控えている。アルタイルの狙撃だけで破るのは厳しそうだ。
「俺が装置を止める。支援してくれ」
俺ならば、魔力障壁の突破も魔導具の破壊も容易い。身体補強のおかげで突破力もあるし、適任だろう。
「んじゃ、俺はハイドとセリを借りるぜ。ここの屋上から狙撃で支援するから、ハイドは防衛、セリにはスポッターを頼む」
なかなかいい布陣だ。魔術が不得手なハイドでも、固定で魔力障壁を展開し続けるくらいだったら造作もないだろうし、セリも落ち着ける障壁内なら的確にアルタイルに的確に指示が出せるだろう。
「【静】とリーンちゃん、それからカノンはレイくんの援護。エイルはカノンの護衛に付いてくれ」
「アタシは無職かよ!?……ですか!?」
それぞれに役割が振り分けられていく中、ティオが叫ぶ。確かに、ティオは少しこの戦場に出すには危うい。
ティオの戦い方自体は多数を同時に相手するのに適性がないわけではない。魔術で牽制しながら一人一人確実に潰せるのなら、むしろ向いているとまで言える。
だが、ティオの練度はそこまでの領域に至っていない。今大勢の魔術師の中に放り込まれれば、魔術を浴びせられて死ぬだけだ。わざわざ死にに行かせるわけにはいかない。
「わかった。リーンちゃんをティオの直衛に回す。できるか?」
「もちろんです。護衛が私の本分ですから!」
それならば大丈夫だろう。リーンなら確実にティオを守ってくれる。俺の後ろについて、俺のサポートに徹することを約束させてから表へと出る。
『カノンの攻撃が合図だ! 真ん中に穴を開けるから、早いこと指揮官を討ち取ってくれ!』
城塞都市の正面に出ると、ティオに預けた通話宝石からアルタイルの声が響く。屋上から手を振るアルタイルに軽く手を上げて返すと、迫るディーファ軍の方に向き直る。
「二人とも、準備はいいな」
ティオとリーンが頷く。若いが才能のある、この国を牽引する人材。ここで殺させはしない。
「撃てぇ〜〜!!!!」
カノンの声と共に、ディーファ軍の中央部に向かって魔術が飛ぶ。これが俺たちの出撃の合図だ。
敵軍も魔力障壁を展開するだけの余裕はあったようで、威力はかなり抑えられてしまう。だが、巨大な魔術が降ってくるというだけでも相当の圧力だろう。中心部から徐々に混乱が広がっている。
ナイフに爆破の魔術が刻印された符を括りつけて投げる。先頭の兵士の腕に直撃したそれは、一瞬の間をおいて大爆発する。
「ここが起点だ! 突っ込むぞ!」
爆風、そして煙を利用し敵軍の中に突入する。今回の目的はとにかく突破だ。混乱を利用して素早く抜けさせてもらう。
敵軍の後方はまだカノンが火力支援をしてくれているらしく、少しずつではあるが障壁を破られ倒れていく者もいるようだ。
爆風を抜け、進路を確認する。距離はかなりあるが、一気に突破できれば問題はないだろう。
いきなり飛び込んできた俺にどうすることもできない兵士を斬り、蹴り飛ばし、あるいは必死に反応してきた兵士の攻撃をいなし別の兵に当てながら前へと進む。
ちらりと後ろを見ると、ティオとリーンも順調なのがわかる。リーンが上手い具合に進路を邪魔せず敵を排除してくれているのもあるが、ティオの動きもなかなかいい。
相変わらず前のめりなのは変わらないが、魔術を牽制に使ったり、敵を盾にしたり、賢く戦っている。こういう姿を見ると、彼女が兵士であることを強く認識させられる。
かなりいいペースで進むことができた。もうそろそろカノンが滅茶苦茶に魔術を撃ち込んでいるエリアだ。俺はいいとして、後続の二人が巻き込まれるとまずい。
懐から煙弾の込められた銃を取り出し、上空に向かって撃つ。それとほぼ同時にカノンの魔術が止む。煙弾に合わせてカノンは攻撃を一旦止め、エイルの魔術で身を隠して撤退する手筈だ。【静】も撤退を支援してくれるから問題ないだろう。
カノンが散々攻撃してくれたおかげで、後方の陣形はもうバラバラだ。まばらに残った兵士たちは傷ついてこそいるが、俺たちがくることへの準備はできている。戦闘自体はより激しくなりそうだ。
「くそっ、なんなんだよコイ────」
叫びながらこちらに魔術を放とうとした兵士が吹き飛ぶ。一人、また一人と倒れていく。
敵兵が恐ろしい速度で倒れていくから一瞬分からなかった。アルタイルの仕業だ。カイルと違って銃声がしないから、なんだかいつもと違って変な感覚だ。勝手に敵が倒れていくような気がしてしまう。
とにかく、おかげで本陣まではもう少しだ。魔導具によって展開された障壁を突破したところで、急に眼前に壁が現れる。
次回、424:小国の意地 お楽しみに!




