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421:護衛の心得

「護衛、要人警護というと、皆さんはどんなイメージをされますか?」


「身体を張って守る感じ、とかかなぁ〜」


「護衛対象を傷つけさせないこと、それが最優先という感じですね」


 俺の認識もそんなものだ。俺は護衛を飛び越えて人を殺した側だからどうにも口を出しにくいが。この手の話題になると、どうしても目を逸らしたくなってしまう。


 王都での決戦を終えた今だからこそ思う。親衛隊のあの圧倒的な強さ、俺はあの時良く生き残れたと。


 ハーグが部下全員を騒動の鎮圧に向かわせてくれたから勝利できたものの、全員で叩き潰されていたら絶対に負けていただろう。


 そう考えるとなかなかに運と、それから相手の油断で俺は生きているのだと思う。今となってはハーグに話を聞くことはできないが、俺が生き残れた理由を知りたいのだ。


「もちろん、何より大事なのは護る相手の命です。でも、そのためにはご自身の命も大切にしてくださいね。『使い捨ての盾』になるのは本当の最後の手段です。……そろそろ準備ができたでしょうか」


 リーンの言葉で、初めてアルタイルがいなくなっていることに気付く。また何か、実演をするために離れているのか。


「えっと、レイさん、的になってもらってもいいでしょうか。魔術を受けても無事なの、レイさんしかいないので」


 そういうことならば仕方がない。リーンが守ってくれるのだろうし。なんとなくやりたいことがわかってきた。


「今からアルタイルさんが皇都のどこからかレイさんを撃ちます。私が守るので、見ていてくださいね」


 癖でうっかりアルタイルの気配、殺気を探りそうになるが、俺は守られる側なのだ。むしろフラットな状態の方がいいだろう。


 臨戦体制を解くためにどうでもいいことを考える。昨日の夕飯の野菜のスープが美味かっただとか、部屋が真っ白でどうにも落ち着かないとか。


 そんな中で、空気が揺らぐ。左後方、距離はまだある。


「あ……」


 うっかり避けてしまった。こればかりはもう身体に染み付いてしまった行動なのだ。なにせアルタイルが本気で撃ってくる。魔術を長距離で飛ばすためにはある程度威力が必要なのはわかるが、ちょっと楽しんでいるだろう、絶対。


 激しい金属音と共に、アルタイルの攻撃が弾け飛ぶ。リーンが俺のいたところまで届く前に、幅の広い剣を生成して防いでくれたのだ。


「おお〜〜!!」


 カノンが歓声を上げる。しかし、リーンの気配はまだ鋭い。


「レイさん、こちらに」


 生成された剣に背中を預け、立たされる。ここにいればアルタイルの射線からは逃れられる。かなり離れた距離からの狙撃を可能にする優秀な魔術師だからこそ、次に俺が見える場所までの移動には時間がかかる。残すは……。


 再びの金属音。今度は俺も動じなかった。さっきから全く気配がないからおかしいと思っていたのだ。【静】の気配が。


 義腕の攻撃を弾いたリーンは、さらに剣を生成する構えを取る。


「防衛は任せてください。シャーロットちゃんは敵の無力化を……」


 と、そこまで言って顔を赤くして構えを解く。リーンも普段の癖が出てしまったようだ。とりあえず、リーンが言いたいことはもうわかってもらえただろう。


 【静】も構えを解き、アルタイルからも通話宝石で帰還の連絡があった。


「刺客は一人とは限りませんし、攻撃は一度とは限りません。護衛対象が護身に必ずしも優れているわけでもありません。ですから、私たちの身も同時に守ることで、護衛がより安全になる可能性が上がるのです」


 まあ、これは少数精鋭による護衛の場合だろう。時には多くの人間を用意して盾に、そして矛にする必要がある。かつてランドリックが俺に民衆を差し向けたように。だが、それは今は知らなくていいだろう。


 これで、俺たちができることはほとんどなくなった。あとは残りの日々で少しでも成長できるよう見てやるだけ。


 残り少ない滞在で、あと心残りといえば……。


「きょ、教皇様!! 大変です……!」


 教皇庁の職員が駆け込んでくる。その様子を見るに只事ではない。これはもしや。


「南部城塞都市から入電。ディーファ連合王国と見られる軍勢が、国境を越え迫っているとのことです……!」


 ついに来たか。アーツの指示を聞いて考えてはいたのだ。アーツが何の根拠もなしに俺にあんな許可を出すはずがないと。調査報告書の内容を踏まえて俺に指示を出したなら、そこには何か根拠があると。それが今だ。


「わかりました。軍隊が国境を無断で越えたこと、これは明らかな侵略行為と認識し、警戒体制を取ります。無理に警備兵を外に出さず、都市の防衛機能をフル稼働させて防衛に徹してください。続報があればすぐに連絡を」


「は、はい!」


「少し早いですが、皆さんの訓練の成果を見せる時が来てしまいました。増援として兵を率いて南へ向かい、敵を打ち砕いてください」


 エーティエは、この事態をどこまで予測していたのだろう。最初からこれが狙いだったのかとすら思えてくる。


「教皇様、お言葉ですが……」


 セリが進み出る。その顔には明確な緊張と恐怖、それから決意の色が灯っていた。出撃したくないとでも言うつもりだろうか。それも当然だが。


「私の出撃は構いません。しかし、今兵を率いることはできません。私が持っているのは立場だけ、それでは兵はついてきてくれないでしょう。そんな士気の低い兵を率いて見殺しにはしたくありません」


 少しオルダーに似ている。怯えて今にも震えてしまいそうなところも含めて。つまりは、出撃は自分だけにしてくれということなのだろう。


「セリさんのお気持ち、意見はもっともですね。しかし、失礼ですが貴方たちだけで一国の軍を打ち破れるとは思いません。それについてはどうお考えですか?」


 エーティエの目が鋭く光る。そう、セリの言うことも正しければ、彼の言うことも正しいのだ。指揮官としての正しさと、為政者としての正しさは必ずしも一致しない。


 確かにセリが単身で行けば無駄な兵力の犠牲は減るだろう。しかしそれで城塞が突破されたら。皇都まで侵攻を許したら。もしくはセリたちだけで軍を抑えられたとして、せっかく選抜して鍛錬した彼らが戦死したら。


 それは、大局的に見れば数十人、数百人の兵の死よりも国にとっては損失だ。勇敢な決断だけが必ずしも正しく、そして良い結果を招くとは限らない。だから。


「俺も行こう。俺がこいつらを指揮して、現場の指揮官を叩いて撤退に追い込む。それならどうだ、教皇様」

次回、422:狙い通り お楽しみに!

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