420:迫る帰還
数日の指導で、5人の皇国兵の動きもかなり良くなってきた。あとはこれを後々の部下に伝えてくれればいいのだが。
「レイさん、今日も鍛えてくれよ! ……ください!」
似た戦闘スタイルの仲間がいないからか、ティオは俺にばかり訓練の手伝いを頼んでくる。たまにはリーンあたりに相手をしてもらった方が戦闘の幅が広がると思うのだが。
「いいぜ。俺も今日は素手でやるかな」
たまにはこういうのもいいだろう。まだティオは基礎が完成しきっていない。無理に応用ばかり叩き込んでも仕方ないし、しばらくは俺が相手をしてやるとしよう。
ティオの課題は単調な攻撃と間合いの管理だ。せっかく打撃の合間に魔術を撃つだけの集中力を持ち合わせているのに、本人が前のめりすぎて間合いを空けられた時のフォローくらいにしか使えていない。
「前に出過ぎだ! 相手をいなして得意の魔術を叩き込め!」
「お、おう! 出過ぎない出過ぎない……!」
調子のよかった打撃のリズムが急にガクッと崩れ、ぎこちなく一歩下がるティオ。だが、そんな状態で撃った魔術が当たるわけもない。
「流れだ。自分を巻き込まず、相手のテンポだけ崩していけ」
明らかに良くなっている。が、そう簡単に完成するわけもない。この後も研鑽し続けてくれることを祈るしかないだろう。
「攻めてくる相手の気持ちになってみましょう。カノンさんはカバーできる範囲は広いですし、だいたいでいいのでそこを狙うようにしてみましょう」
「ブッ放すだけじゃダメなんですね〜。うまく狙うコツとかってあります?」
カノンの避けやすい魔術も、リーンに指導されればそれなりに良くなるだろう。本人も直す気があるようだし。
「ま、魔術が苦手ならそれはそれでやりようはある。……筋はいいと思うんだけどなぁ」
「は、はい……!」
ハイドは未だに調子が悪そうだ。アルタイルもお手上げらしい。これに関してはどうにもならないし、アルタイルの言う通り魔術以外を磨けば何とでもやりようはある。
「とにかく捌き続けろ。指揮官には広い視野と鋭い反応、そして正確な判断が必要だ」
【静】の指導はかなりしんどそうだ。聖遺物の腕を地面から無数に飛び出させ、セリとエイルがそれを撃ち落としている。【静】は多少手を抜いているようだが、二人は追いつくので必死という様子。慣れられるといいが。
「隙ありッ!!」
俺を狙って飛んできた拳を掴み、この間のように投げ上げる。受け身は最初に叩き込んだから今回は無事だったが。
「なーんで!? コッチ見てなかったじゃん! ……じゃないですか!」
俺が余所見をしたことにワクワクして身構えすぎだ。まずは自分のペースに持っていく起点を作れと言っているのに。
「良くはなってる。この調子だ」
いくら口で言っても、自分で理解できなければ身にはつかない。学ぶ速度は優れているし、鍛えていく中で実感してくれるのではないだろうか。
それはそうと、俺たちの滞在期間の終わりも迫っているし、リーンが言っていた訓練もそろそろ提案する必要がある気がする。一旦休んだらどうだと言っても止まらないティオの攻撃を捌きながら、リーンの側まで歩いていく。
「なあリーン、この前言ってた『あれ』はやらなくていいのか?」
「あ、そうですね。こっちに夢中になっちゃってました」
「え、アレって何だよ! ……ですか?」
俺たちの会話に、ティオが耳聡く反応する。やはり集中力というか、並列思考が得意なのかもしれない。かなり本気で突っ込んできているだろうに。
俺たちが会話を始めたのを見て、カノンも一度動くのを止めこちらを向く。
「兵士のお仕事は、戦争で戦うだけではありません。どの国にも要人警護の部隊があります。要人警護は他とは勝手が違いますからね、何かお伝えできればと思いまして」
そう、リーンの本職は女王クレメンタインの警護だ。エーティエの警護をする必要も出てくるだろうし、ノウハウを知っていて困ることはない。
まあ、エーティエのことだから守られなくて大丈夫なような気がするが。だがあえて護衛もいない無防備な環境に晒す必要もない。必要な訓練だろう。
「教皇様の護衛、やりたいなぁ……」
「アタシもだ! いい人だもんな!」
部下にこう思われるのは狙い通りではあるのだろう。やり方はどうあれ、国の暗部を一人で背負おうという覚悟については尊敬できる部分でもある。
「セリ達もやろうよ〜!」
「そうだな、どの技能もこの国には必要になるものだ。いいですか、【静】さん?」
【静】もこの話には大いに同意していた。特に断る理由はないだろう。全員がリーンの側に集まってきたところで、リーンは話を始める。少し緊張しているみたいだ。
次回、421:護衛の心得 お楽しみに!




