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419:力の差と数の差

 妙な振り方をされてしまったからには、なかなか負けられない。ほぼ素人の兵士5人になら負ける気はしないが、万が一ということもある。手を抜かずにいこう。


 作戦会議のために用意された時間はそう長くないし、俺の戦闘もそこまで見られていない。一発目で俺を陥れるような作戦は組み立てられないだろう。


 その間に俺は装備を取り替える。おかしな当て方をして負傷させてしまっても嫌だし。木剣も当たり所が悪いと重傷になるが。


「終わりました」


 そう宣言したのは、生真面目そうな女、セリ・アンピュート。さながらこの隊の隊長、指揮官といったところか。


 頷いてそれに返すと、今度はアルタイルが合図役となって【魔弾】を放つ。天に昇っていったそれが炸裂した瞬間が合図だ。


 響いた音と共に駆け出す。悪いが、速攻で一気に片付けさせてもらう。だが、俺を倒すための作戦を考えてきたということはそう簡単には進ませてはもらえないだろう。


「カノン、進ませるな!」


「りょうか〜い! 地を割る光の槌よ、我が敵を、とにかく打ち砕けっ!!」


 【魔弾】の範囲を拡大した【ライト・ストライク】。だが、この兵士、カノン・バトリーの特異なところはそこではない。数が異様に多いのだ。これは、もう少し鍛えれば一人で拠点防衛か何かができそうな気がする。


「ちょっと詰めが甘いな」


 大量の【ライト・ストライク】、範囲は申し分ないがどうにも避けやすい。おそらくカノンは……。


「狙うの、苦手なんだな」


 極大の魔術の弾幕を抜けると、もうかなり接近できていた。進路を的確に塞いでくるリーンと比べるとどうしても進みやすい。


 俺がカノンの攻撃を突破したことでさらに陣形を防御寄りに変更した彼らは、以降も牽制に徹している。


 合間を縫って【魔弾】を飛ばしてくるのはハイド・ファミューラ。正直パッとしない男だ。速度もコントロールも微妙で、どうにも当てる気がないというか、手を抜いているというか、そういう印象が残る。


「これ以上は近付かせねェ! ……です!」


 ここでやっと飛び出してきたのはティオ・ヴィオーラ。この中だと少し若いような気がする。俺やハイネと大差ないのではないか。


「撃てッ! 撃てッ! 撃てッ!」


 格闘と魔術を組み合わせた戦闘か、面白い。どちらも荒削りだが、ちょっとした隙を突いて【魔弾】を連射してくる技量はなかなかのものだ。とはいえ、単体では大きな脅威になるものではない。


「なんで当たらねェん……うわぁッ!?」


 突き出された拳、というか手首を掴み、後方に投げ飛ばす。あの様子では受け身も取れていないだろう。残るは四人。


「ッ……! 鏡よ、偽を映し幻を照らせ」


 残った四人が周囲の風景と同化して消える。幻影系の魔術、【ミラージュ】か。エイル・ピール、ここで一旦俺から身を隠したのは結構だが……。


「で、どうすんだ?」


 【ミラージュ】は結界型の魔術。出れば姿は見えてしまうし、逆に俺が入っても姿を見ることができる。俺の場合は入る時に魔術ごと壊してしまうが。エイルは咄嗟の判断は悪くないがどうにも決め手に欠ける。後先はあまり考えられていないか。


 さらにスピードを上げて【ミラージュ】の結界内に突入し、そのままの勢いでセリとエイルを木剣で打つ。


 残るはハイドとカノン。この二人の脅威度はこの間合いでは大差ない。ハイドを掴んで持ち上げると、カノンに投げつけ揃って吹き飛ばす。決着だ。


「ま、こんなもんだろ。みんな立てるか?」


 そこそこ吹き飛んでしまったティオは少し頭がふらついていたようだが、全員無事だった。だが全員かなり疲労が溜まっているように見える。


「講評は我がしよう」


 どうやら戦闘中にアルタイルが飲み物を買ってきてくれたようで、今はリーンがそれを5人の兵士に配っている。【影】も手持ち無沙汰に感じたのだろう。助かったが。


「今回の戦闘、連携というより役割分担をしたのみという印象を受けた。まず、カノンはコントロールが苦手なのが一瞬で見抜かれたな。ある程度接近されたら木偶になるようでは死ぬ。コントロールを上げる以外にもできることがないか考えてみたらどうだろうか」


「うんにゃ、そうですね……。バレちゃってましたか……」


 カノンが恥ずかしそうに頭を掻く。静もよく見ているものだ。弾幕で視界の悪い中、俺の動きを把握していたのだろう。


「それからティオ、レイが近接戦闘を得意としているのがわかっていながら少し動き出しが遅かった。技量で敵わないのは仕方がないとして、自分の役割は明確に理解して動くべきだ」


「アタシの役割……今回だと時間稼ぎかな。……ですかね」


 【静】が頷く。俺とティオで戦えば、一対一だとティオにはまず勝ち目がない。勝ち筋があるとすればティオが俺を抑えている間に奇襲くらいだろうか。


 ティオは動き出しが遅かった割に、戦闘自体はかなり前のめりだった。あれでは仲間が援護しにくい。俺が弾幕を抜けたらすぐに戦闘に入り、隙を作るための戦いをするべきだった。


「ハイド、動きや判断自体は悪くなかったが、妙にぎこちない印象を受けた。体調というよりは、魔力の波長が魔術と合っていないような感じがする。自分の得意を再度見直すといい」


 ハイドの顔色が悪くなる。突かれたくない部分だったのだろうか。しかしあの微妙な感じを魔力と魔術の不釣り合いと見抜くとは、側から見るというのも悪くない。俺は側から見ても分からなそうだが。


「エイルは、咄嗟の判断自体は悪くなかった。だが次善の策といった程度。逆にセリは役割や戦略については中心になって考えていたようだが、一度崩れるとブレーキが効かなくなるな」


 確かに、セリは俺が弾幕を抜けてからはずっと軽いパニック状態だったような気がする。あれは俺がカノンの攻撃を予想より早く抜けてしまったからなのか。


 しかし、よくもこう感じたことを指導の材料として伝えられるものだ。部下を持っている人間は違うということか。俺には一生部下などできる気がしないが。


「みんなお疲れさん! それぞれ考えることもあるだろうし、今日は終わりにしよう!」


 【静】の講評が終わると、アルタイルが明るく告げる。今までの戦いを思えばどうということはないのだが、それでも戦えば疲れる。俺も休みたかったところだから助かった。


「んじゃ、また明日な!」

次回、420:迫る帰還 お楽しみに!

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