404:避けられない道
「それについては、俺から話そうか」
わかっていた、というような顔でアーツが立ち上がる。どうやらこの件に言及されることは予想していたらしい。
実際、ハーグの死については俺も気になっていた。アーツは後先を考えて俺たちにも指示を出している。そんなアーツがなぜこの国の最高戦力の一人、ハーグを殺したのかと。
「つまるところ、彼は強すぎた。先の戦いを見据えた時、彼を乗り越えられる自信がなかった。だから、事前に排除させてもらった」
あのアーツにあそこまで言わしめるとは。正直なところ、俺はハーグという男の本気を知らない。直接触れずとも身体を焦がすほどの炎や剣技は脅威ではあったが、一方でどうしても勝てない相手とは感じなかった。
「この革命を成し得るために、彼を殺した。そういうことか……?」
「ああ、そうだ。一つ言い訳をさせてもらうとすれば、これかな」
アーツはイッカに向かって一束の紙を投げる。イッカはかなり憤っていた様子だったが、内容を確認して顔色を変える。
「これは……事実か……?」
「ああ。どちらが手を出すのが早かったか、そういう違いさ。だからと言って俺の罪が消える訳じゃないがね」
それだけ言うと、アーツは席に着く。もう言うことはない、ということだろうか。どうやらアーツはハーグを殺したことを許してもらうつもりはないらしい。
それは多分、アーツ自身が自分のことを許していないからなのだろう。アーツのことだ、親衛隊を全員残した上で先の戦いを終えたかったはず。ハーグを殺したのは不本意なのだろう。
しかし、イッカが顔色を変えるほどの事実とはどのようなものなのだろうか。
「なあなあ、団長さんよ。私たちにも教えてくれよ〜」
ミトラが呑気に声を上げる。ハーグの死に関わっている以上少し俺は聞きにくかったから、助かった。多分、この場にいる全員が気になっている。
「ああ、すまない。ハーグだ……前団長の殺害は、彼らだけでなく【蒼銀団】頭首のハーツ・モア・アスカリッドも同じく企てていたものらしい」
あのハーツが。おそらくはアーツと同じ理由で。自分の保有している戦力では総力戦を仕掛ける時にハーグを倒しきれないと考えたのだ。この奇妙な因縁を、アーツはどう考えているのだろう。
アーツがこれを『言い訳』として提示したのは、遅かれ早かれハーグは殺されていたであろう、と言いたかったからなのだろう。
何を見せたのかわからないが、ハーツがハーグを殺せたであろうことはイッカの反応からして明らかだ。
イッカはしばらく黙っていた。俯いたり、手元の紙の束に目を落としたりして何かを考えているようだった。しばらくして、紙を机に置くとゆっくりと立ち上がる。
「この件、納得することはできない」
つまり、俺たちと協力することはできないということか。意外ではないが、不合理だ。ハーグとの関係が薄いからこそこんな他人事のように言えるだけだが。
「……だが、理解はした。今すべきは怨嗟を持ち続けることではない。彼以上の働きを、君たちには期待している」
俺たちのところに怒鳴り込んできた、あの頃のイッカとは少し違うようだ。他の面々も安心したような表情を見せている。この協力関係が上手くいくのか、みんな内心不安だったのだ。
「イッカ、ありがとう。じゃあ、今日はここまでにしておこうか」
キャスが明るく告げる。とりあえず、今日はこれで終わりだ。明日以降親衛隊の代わりに少しずつ働くことになるのだろうから、休んでおかねば。
次回、405:最良の選択 お楽しみに!




