402:顔合わせ
新章、「EX:四国円卓会議」編開幕です!
キャスの戴冠宣言の直後、俺たちは戦闘で負った傷の治療のため王城付きの医者に徹底的に治療を受けることになった。のだが……。
「ちょ、ちょっと! あなたどれだけ重傷だと思ってるんですか!? あと5日は少なくとも安静にしていてください!!」
「大丈夫だって! 俺は他より傷の治りが早いんだ!」
中でも俺が1番の重傷だったようで、やけに医者に目をつけられてしまって自由に動けない。身体補強も利用してほぼ完治したのだからそろそろベッドから出してほしいというのに。
「あ、えっと! レイさんは本当にすぐに傷が治るんです! これからお仕事もあるので解放してあげてください……!」
途中でハイネが仲裁してくれたおかげで、なんとか解放された。むしろハイネも細かくはあるがまだ傷が治りきっていないのだから大人しくしていたほうがいいだろう。
「助かった。ありがとうな」
「いえ! レイさんは丈夫ですもんね!」
丈夫、というよりはしぶといだけの気もするが。まあ生き延びやすいという意味では両方とも大差はないか。
それにしても、初仕事が『コレ』とは。なかなか厄介なことになりそうでできれば顔を出したくない。
「なぁ、本当に俺も行かなきゃダメか……? モルガン達の所にも礼に行きたいんだが……」
「あはは……。私も正直ちょっと気が重いですねぇ。でもこれから一緒にお仕事する仲間ですから! 仲良くしましょう! モルガンさん達の所には今度一緒に行きましょう! ね?」
「……ああ、わかったよ」
キャスからの指示でもあるし、この体制になってからの初の仕事だ、しっかりこなすとするか。かなり気が重いが、ある部屋の大きな扉を開ける。
「貴様、遅いぞ! いつまで寝ていた!」
部屋に入った瞬間に、飛んできたのは鋭い声。かなり広い会議室だというのに、部屋中に反響するほどの通る声だ。
「なにさ、君も俺の魔力でずっと寝てたじゃない」
「な、何を……!」
鋭い声の主、イッカにアーツがすかさず反撃する。これがいわゆる火に油を注ぐというやつだ。頼むから勘弁してほしい。
「ま、まあまあ……アーツさんもイッカさんも仲良くするっすよ……!」
「少年の言うとおりだッ! 今は仲間なのだから、仲良くしようッ!」
カイルと、親衛隊の大男、レオのフォローもどこか争いを加速させそうな空気を感じて冷や冷やする。ここで乱闘が始まらなければいいのだが。とりあえず立っていても仕方がないので手近な椅子に座る。
「さて、全員揃ったところで始めようか」
一部とはいえこれだけ険悪な空気だというのに、仕切り役のキャスはどこか嬉しそうだ。
今日は俺たちの初仕事。ここ数年の動乱で親衛隊の数が急激に減ったため、その一時的な埋め合わせを俺たちがしようということに決まったらしい。今日はそのための顔合わせだ。
とはいえ、つい何日か前まで命を懸けて戦った相手だ。こんな空気になるのも頷ける。
「じゃあ、とりあえず特務分室から自己紹介しようか。アーツから順番に頼むよ」
キャスの声に応じて、アーツが立ち上がる。その表情は今までよりも柔らかく、そして穏やかだ。
「俺はアーツ。アーツ・モア・アスカリッドだ。一応特務分室を取りまとめていたよ。頼りにしてくれたまえ」
アーツが再び席に着くと、隣のカイルに次を促す。
「カイル・ベルナールっす! 斥候やってました、よろしくお願いします!!」
店の方で顔を合わせたことがあるのか、フラマが軽く手を振る。カイルはそれに対して笑顔で返すと、レオの許まで歩いて行き鉄球を手渡す。
「僕の魔術を知ってほしいっす。ご覧くださいっすよ!」
そう言うと、カイルは目隠しをしてレオに合図する。なるほど、面白い。
合図を受けたレオが鉄球をバラバラに放り投げる。ここまで分散してしまうと、気配を探るだけでは追いきれない。カイルの力が発揮されるちょうどいい場面ということか。
腰の拳銃を抜くと、カイルはバラバラに投げられた鉄球を全て撃ち抜く。さすが、見事な腕だ。
「ほう、興味深い術式だね」
親衛隊の杖を持った少女はなにやら興味がありそうな様子だ。カイルは軽く片付けを済ますと、次のリリィの方を向く。
「頑張るっすよ!」
「うん、任せて」
リリィが立ち上がる。
「私はリリィ。魔法が使える。今見せてあげるから、カイル、ボールちょうだい」
どうやらリリィも自分の魔法の実演がしたいらしい。だが、こんな室内でリリィの魔法を使えば砕けるのは鉄球だけではない。それこそ城に大穴が開くことも覚悟したほうがいいだろう。
面白がってやらせようとするアーツを制止し、ハイネとカイルが説得しなんとかリリィを抑えることに成功した。のだが。
「でね、ここを押すと開くの。魔力を通すと発射されるんだよ。こんなふうに……」
「リリィちゃんちょっと待ってぇ……!!!!」
どうやら新装備の鞄を紹介することで落ち着いたようだが、余すことなく機能を伝えたいようで、ちょくちょくハイネに制止されている。実際その角度だと弾丸がオラージュに直撃する。
まあオラージュなら大丈夫かと見てみると、案外怖がっているようだった。悪意なく攻撃が飛んでくるかもしれないのだ。当然といえば当然か。
たっぷりと自分の装備を紹介すると、リリィは満足げに席に着く。次は散々リリィを諌めていたハイネの番だ。
「え、えっと。ハイネ・フェイルといいます! 静かに人を殺すのが得意です、よろしくお願いします!」
リリィに恐怖していたオラージュの顔がさらに曇る。他の面々もかなり驚いた様子だ。間違ったことは言っていないが、確かに表現自体はかなり恐ろしい。
「レイさん、どうぞ!」
ハイネに言われ立ち上がる。俺は簡潔に、それでいて誤解を招かないような自己紹介をしなくては。
「俺はレイ。魔力を喰らう体質で、魔術が使えない。一緒に仕事をすることになったらサポートしてもらえると助かる。以上だ」
「任せておけ、少年ッ! 俺は君をサポートするぞッ!」
満面の笑みでレオが応えてくれる。嬉しいには嬉しいが、支持を得られたのが一番サポートに向いていなさそうな人間というのは微妙なところだ。
手を軽く挙げてレオに返すと、キャスの方を向いて進行を促す。
「さて、特務分室の紹介は以上だよ。次は親衛隊のみんなにお願いしようかな。イッカ、よろしく」
次回、403:威光 お楽しみに!




