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399:指揮官オルダー

「王城へと入ろう。残すは大将戦だけだ。ハイネちゃん、応急処置でいいからアーツの治療を頼めるかな」


「も、もちろんです!」


 やっと一段落といったところか。俺も含めみんなボロボロだが、どうにか誰も失わずに済んだ。これも、アーツの命を優先しろという指示のおかげか。リリィには響いていなかったようだが。


 だが、それももういい。リリィも無事なのだから。ハイネの治癒魔術でどうにかアーツの傷を塞ぐと、キャスを先頭に王城に向かって進む。


 思えば、俺が前王を殺した建国記念パレードも、こんな行列だった。もう少し規模は大きかったが。そう思うとどこからか刺客が飛び出してくるんじゃないかと心配になる。


「む、結構多い」


「王国所属の戦力は極力削らず、っすよね……」


 城門の前には、王が集めたのであろう兵士が集結していた。別に殺すだけならどうということはないのだが、この革命の後のことも考えて、無駄な殺しはしないという指示が出ている。


「みんな、ここはあたしが……。────いや、道を拓いてくれるか?」


 これが、王の責務というやつか。この戦場の中でも、王は傷ひとつ、塵ひとつなく立っていなければならない。罪悪感に負けて前線に立つことは許されない。常に威厳を持って、死なずにいる大将である必要があるのだから。


「おうよ、任せとけ」


「うん、やれる」


「これが、僕たちの仕事っすから!」


「そうですよ! お任せください!」


 全員、やる気は十分だ。アーツも以前より使える禁呪の数も質も上がっているようだし、ここで負けることはないだろう。


「俺がサポートする。みんなを死なせはしない」


 アーツの援護があるなら安心だ。とにかくキャスに敵を近付けさせないことだけ考えればいい。キャスが歩を進めるのに合わせて、護るように前進する。


 城門をめぐる戦いは、すぐにカタがついた。なにせ、アーツの禁呪でこちらに攻撃は当たらないのに、練度の高いこちら側は一撃で兵士を昏倒させられる。


 リリィやハイネは殺さない戦いが苦手だと思っていたが、なかなか良くやっている。


 ハイネは静謐の魔力特性を生かして気配を消しているようで、器用に毎度兵士の後ろに回り込んで手刀で気絶させている。周囲の兵士も、俺も瞬間的にハイネの気配を完全に感じられなくなる事がある。敵に回したら恐ろしい。


 リリィはといえば、身体と鞄を軽くして、魔力の噴射で加速させながら思い切り兵士たちの頭を殴って回っている。動きから見て衝突の瞬間だけ重力石から魔力を抜いて威力を上げているようだ。あれもあれで恐ろしい。


「助かったよ。でも城に入ってからが本番だ、気は緩めないでくれ」


 一度退いた親衛隊のこともあるし、油断はできない。中からも相当な人数の人の気配がする。閉所での戦いになるし、どうなることか。


「うわぁ、この数は……」


 ハイネの驚きももっともだ。とにかく戦力をかき集められるだけ集めたという感じだろうか。殺意が一気にこちらに向けられる。


「待て! まずは私が交渉する!」


 威厳のある声と共に現れたのはオルダーだった。ここまで覇気のある指揮官になれるとは、やはり俺は切っ掛けを作っただけで、もともと素質はあったのだろう。


「ここは、俺に任せてくれないか」


 キャスに問うと、キャスは軽く頷く。きっとこれは、オルダーが俺にくれたチャンスだ。きちんと向き合いたい。


「よう、オルダー。久しぶりだな」


「こんな再会は望んでませんよ、先生」


 未だに『先生』か。歳の多寡など関係ないとはわかっているが、それでも年上に先生と呼ばれるのはいまいちしっくりこない。


「あなたがこの国を裏切るとは思っていませんでした。なぜ、こんなことをしたんです」


「大昔の裏切りの、その精算だ。手段こそ選ばなかったが、俺はこの行動が間違っていたとは思わない」


 正面から睨み合う。あんなにも弱々しく怯えていたオルダーが、こんな目をできるようになるとは。先生冥利に尽きるというやつか。


「俺は、お前を踏み越えてでもあいつを、この国の真の王、キャスリーンを王座に就ける。お前がいくら『交渉』しても、それを撤回するつもりはない」


「先生は、それが絶対に正しいと、そう信じているんですね」


「ああ」


 そう言うと、オルダーはしばらく黙ってから耳に手を当てる。手の内にきらりと光るのは通話宝石か。しかし、オルダーからは全く魔力の動きは感じない。


 耳から手を離すと、俺に背を向ける。


「指示を変更する! 現在肝要なのは逆賊【蒼銀団(アビス・インディゴ)】によって傷ついた王都を、民衆をいち早く救うことだ! 各自復旧の支援に当たれ!!」


 オルダーの号令と共に、王城内に控えていた兵士のほとんどが城を出ていく。これがオルダーの力ということか。なかなか恐ろしい。


「信じていますからね、先生」


「ああ、お前の協力は、決して無駄にはしない」


 もう、もうすぐだ。もうすぐで、やっと俺たちの戦いが終わる。

次回、400:故き裏切りの鎮魂歌 お楽しみに!

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