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398:誓う者たち(裏) - lost code -

「つい昨日売ったぁ!? 誰に!?」


「ああん? 昨日兄ちゃんが買いに来ただろうが。まさか覚えてねぇなんて言わねぇだろうな!? 返金なんざしねぇからな!」


「わかった、ありがとう……」


 アーツだ。アーツがあの禁呪を買っていったのだ。いくら手荒なやり方だろうと、奪わなければ。あれをアーツの手に渡すわけにはいかない。


 昨日買ったのであれば、既に刻印の準備はできているはず。アーツがいつも刻印をしているという地下室に向かわないと。


「クソ、あのバカ……!」


 アーツはいつも、優秀で融通が効くのに詰めだけは甘い奴だった。禁呪に辿り着くのばかりが早いだけで、あの禁呪の『別側面』は知らないはずだ。


 あの禁呪は時間操作魔術を極めた魔術師の遺品でありながら、同時に怨嗟の塊でもある。致命的に『才』を持たずに生まれた魔術師の、前へと進む強すぎる意志を遺した禁呪だ。


 それゆえに禁呪の中では無類の強さを誇るが、一方でその強すぎる意志は所持者を滅ぼすと言われている。具体的にどう滅ぼすのかは分かっていないが、とにかく危険なのは確実だ。


 これ以上禁呪を刻印することすら危険だというのに。そんな代償を負った禁呪など持たせられない。これ以上アーツばかりに負担をかけさせはしない。


 やっとのことで辿り着いた地下室では、既に刻印が始まっていた。術式介入魔術を使えば、刻印先をどうにか俺に向けることはできるはずだ。しかし……。


「アーツ……」


 そうすれば、アーツに恨まれることは必至だ。事情を話せば分かってくれるだろうか。自分の身を削ってでもキャスリーン様のために戦おうとしている彼に、その命のために力を奪ったと言って、許してくれるだろうか。


 恐れるな。どんなに恨まれてもいい。アーツが生きているのなら、できることがあるはずだ。それに、恨みを買うのなら俺は俺のやり方でことを進めればいい。簡単なことだ。


「彼を我に、我を彼に。書き換えよ、塗り替えよ、其は我のものなり」


 術式介入魔術、【ジャック・フォーミュラ】。まだ刻印は始まったばかりのようだ。これならば、簡単に俺のものと設定を書き換えられる。


「何してるんだよ、兄さん……」


 アーツの瞳に宿っているのは、驚きと、困惑と、そして隠しきれない憎悪。だが、いいのだ。俺は悪役として生きると決めた。いつか、二人生きて目的を果たせたのならば許してもらえるだろうか。


「探してたんだ、これ。ありがとよ」


 笑顔がぎこちないのが、自分でもわかる。それでもいいのだ。とにかく、弟を裏切った兄に今、なりきれればそれでいい。


「決めたよ、俺はこの力で親衛隊に入る。そして……」


 こんなもの、口から出まかせだ。でも、これぐらい言わないと覚悟が決まらない。実際、親衛隊にでもならなければ、俺たちの目的は達成できない。


「この国を、完全に消滅させる」


 そんなこと、言うつもりなかったのに。まるで他から思念が流れてきたような、未来の自分を先取りしたような、そんな感覚。自分の果てを垣間見たような、そんな感覚だ。


 でも、この驚きを気取られてはいけない。言ってしまったことを今更訂正するわけにもいかないから。アーツに背を向けて歩き出す。


 もう、止まるわけにはいかない。ここが、俺の本当の始まりだ。俺は、絶対にこの国を……。


 アーツを置いて歩いていると、禁呪が馴染んできたのか段々と身体の痛みがなくなってきた。いや、むしろなくなってきて初めて身体が痛んでいることに気が付いた。


 そして、禁呪の仕組みも段々とわかってきた。この禁呪、記憶を喰らうのだ。ただ単体の力では小さな物質一つに流れる時間を止めることくらいしかできないようだ。


 破滅を招く禁呪、その所以がやっとわかった。力に溺れて絶対に忘れてはいけないことまで忘れてしまうのだ。それならば、俺がすべきなのは至極簡単なこと。


 アーツのこともキャスリーン様のことも、忘れなければいい。事が済んだら全て話して許してもらうのだ。これを絶対に忘れない。俺は俺を失わないまま、この力を御してみせる。

次回、399:指揮官オルダー お楽しみに!

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