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397:根源奪還革命3

 術式の支配権が戻った。ハーツもそれは肌で感じているだろう。だからこそ、勝負はこの一瞬で決まる。障壁を展開すべきは……。


「ここだッ!」


 展開するのは真正面。きっとここで勝負を仕掛けてくるはず。未来が視えようが、障壁があるとわかっていようが、正面から仕掛けてくる。


 一際大きい金属音。読み通りだ。静かな星空を境目に、ハーツと睨み合う。


「癪なんだよッ!」


 ハーツの叫びと共に空間が歪む。時計の針を象った剣の、その両側の時間を操作して空間を断裂させようとしているのだ。どんなに強固な護りを持つこの障壁でも、大元を引きちぎられてはどうにもならない。


「ッ……!!」


 障壁の崩壊と同時に噴出する流星。どうしても障壁を破られてしまった時の自動反撃機能と禁呪の開発者は言っていたが、この局面ではハーツの速度を多少緩める程度にしかならない。


 しかし、その多少の速度の緩みが、俺の命を救った。咄嗟に右に飛び、どうにか肩を深く斬られるだけで済んだ。


「【堕つる終末の黒星(ザ・ドゥーム)】ッ!」


 すれ違いざま、漆黒の虚無を生成し、そのままハーツに叩きつける。追撃を防ぐための一撃であったが、左腕に直撃してくれた。片腕を失った今まともに剣は振れないだろう。


 落とされなかったとはいえ、こちらの傷もなかなかに深い。俺も左腕は使えないと思った方がいい。だが、そろそろ効いてくるはずだ。


「な、なんだ、これ……?」


 やっとだ。ここまで耐えた甲斐があった。さっき撒き散らしておいた【不識の束縛(ストップ・ステップ)】の効果が、やっと現れたのだ。


「気付けなかっただろ。浸透は遅いが隠密性は完璧だ」


 【不識の束縛(ストップ・ステップ)】は魔術的な麻痺毒だ。すぐにバレて解毒されてしまう魔術毒を、ここまで恐ろしいものにできるとは。


 あとは、寿命を持ってくる暇も与えず即死させるだけだ。鎖で何度も串刺しにすれば、殺し切れるだろうか。


「……【タイム・アイソレーション】」


 つぶやきと共に大量に展開される時計。同時にハーツからおびただしい量の血が溢れ出す。何かする気だ。


「【アダマントチェインズ】ッ!」


 手遅れになる前に、手を打たなければ。出せる鎖を全てハーツに向かって発射する。逃しはしない。


『時は、統べるもの。あまねく世界を支配するもの』


 響いたのは、時を告げる針のような声。外から聞こえるようでありながら、体の内で響いているようでもある。ただ一つ分かったのは、もう手遅れであるということだけ。


 この現象は、あの超越者ヴィアージュの居城にも似ている。時間を操作することで完全にこの世界と隔絶した空間を作っているのだ。


 空間は時間なくてはあり得ず、ゆえに【時空】のハーツということか。決して甘く見ていたわけではなかったが、ここまでの領域に到達しているとは。しかし、俺にはわかる。


 あの術式を使用した瞬間に聞こえた、何かが砕けるような音。あれはハーツの、彼自身の魔力回路が後戻りができないまでに破壊された音だ。ここで逃走したとして、短い寿命でその力を取り戻せるかどうか。


 無慈悲に進む時計の回転と共に、ハーツは完全にいなくなった。息の根を止めることはできなかったが、それでも俺の、俺たちの勝利だ。


「結局、殺せませんでしたね……」


「僕も手伝えればよかったんすけど……」


 狂気に毒されハーツを殺すことばかりに注力していた俺ならば、きっと悔いていた。でも今はもういい。彼らがいるのだから、もう必要ない。そんな執着は。


「次は殺すさ。君たちも、手伝ってくれたまえ」


 笑うのが辛くなくなったのは、いつぶりだっただろうか。

次回、398:誓う者たち(裏) - lost code - お楽しみに!

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