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392:絶対的予測

「だから、来てほしくなかったのに」


 バレてしまっては、こう言うしかない。もう少しだけ完璧な室長でいたかったのだけれど、どうにもそれは許されないらしい。


「くくく、今まで築いてきたモノが崩れるのはどんな気分だ?」


 最悪だ。だが、この戦いの勝利に比べれば、安い出費だ。泥沼の底のような気分を味わって、それで勝てるならそれでいい。


 部下がみんな集まってきたということは、すなわち勝利したということ。ここで俺が勝てば、この革命は成功する。


「荒れ狂えッ!」


 ありったけの鎖を撃ち出し、雷光を放つ。だが、その全てがハーツには当たらない。全方位に意識を張り巡らせていても、それでも当たるように放っているのに。なぜか全て避けてこちらに近づいてくる。


 あの妙な回避の仕組みを理解しなければ攻撃は厳しいか。とにかく今は、反撃の隙を与えないほどに攻撃し続けなければ。


 ハーツの動きは決して優雅でもなければ流動的でもなく、余裕も感じない。むしろあれはどこか行き当たりばったりのような、そんな感じだ。どうにか避けさせられているようなぎこちなさ。


 だが、奴の禁呪は時間を司るもの。その中に危機回避は含まれていないはず。あの、攻撃を理解していないかのような動きの正体はいったい……。


「隙ありだぞ、アーツ!」


 まずい。


 嫌な音を立てて、鎖が一本捻じ切られる。あの攻撃の原理はわかる。故に修復がもう望めないこともわかる。手数を減らされた。ハーツの回避の仕組みに思考を割いたせいだ。


 ハーツのあの切断攻撃は、時間の操作を鎖の一点に集中させておこなったもの。普段通りに時間の流れる地点と、改変された地点の間に齟齬ができて、固体であることを保てなくなったのだ。


 正直、あれが最も怖い。まだハーツが試していないだけで、【綺羅星(デュオシデム)】を砕く可能性すらある。硬いだけでは、空間そのものを捻じ曲げるアレには対抗できない。


「綻びってモンは、嫌だなぁ! アーツ!」


 鎖を砕かれたのがいけなかった。一気に戦いのリズムがハーツの側に傾いてしまった。無数のナイフや空間の捻じ曲げが、的確にこちらに迫ってくる。


 攻守が入れ替わっても、違和感は変わらない。ハーツの攻撃は準備されたものではないのに、なぜか的確に俺を狙ってくる。


 どんな回避の仕方をしても、次の瞬間には心臓めがけて攻撃が飛んでくるのだ。ここまで執拗な攻撃が、偶然なわけがない。外れる攻撃もまた多いが、それにしても狙いが正確すぎる。


 だが、ハーツからは誘導や深い思考を感じない。ただあるべき場所へ攻撃を放っているような、俺がいるべき場所が既にわかっているような……。


「わかっているのか……まさか」


 そう考えれば合点がいく。事前に攻撃が来る場所が、標的のいる場所が、わかっているから意思を感じないのだ。彼にとって戦いは、見た未来をより良くするだけの作業でしかない。


 であれば、俺のやるべきことは一つ。ただただ追い詰めていくだけ。不思議と体は辛くない。いまなら、全ての禁呪の力を引き出しても全く苦しくない。


 いや、むしろ快い。気持ちがいいほどに体も魔力もよく動く。未来が見えるのならば、避けられないだけの攻撃をするだけだ。


「愚かだなぁ、アーツ」


 回避の、その先の先の先の先、どうしても避けられない一撃を、ハーツは時間を停止させることによって止めた。今までは、避けられていたから使っていなかっただけ。避けきれない分は止めればいい、そういうことか。


 体も魔力もよく動く。が、頭が動いていない。この期に及んでこの男に恐怖している。頭だけが普段より回っていない。


 落ち着け、アーツ。あの守りを破る方法を考えろ。


 所詮は回避。超広範囲の攻撃……は、仲間がいるここでは使えない。では引力を持つ【堕つる終末の黒星(ザ・ドゥーム)】なら。これもダメだろう。避けられない攻撃はきっと止められてしまう。


 察知できず、止めることもできない、そしてハーツにだけ当たる攻撃。そんな都合のいい禁呪などあっただろうか。


 違う。一つの禁呪に頼るんじゃない。やっといつもの感覚が戻ってきた。全能感で普段の工夫を忘れていた。


「終わりかい、アーツ」


 これを戦意喪失だと受け取ったなら、ハーツの目は節穴だ。向こうも攻撃の準備が万全だから、それはないだろうが。


「雷光・装填」


 空間を割く線のように飛ぶ雷鳴も、【魔弾】のように圧縮して飛ばすことができる。これを最大まで利用する。


 狙うは直上。ただそれだけでいい。発射された雷光は一瞬で天へと届き見えなくなる。


「何のパフォーマンスだ? 戦う気がないなら、殺すぞ」


 もやついていた殺意が具体化する感覚。霧に見え隠れしていた刃物が目の前に突き出されたような、明確な死の感覚。だが。


「な────」


「この未来は、見えなかったろ」


 ハーツの胸を貫く雷光。【アダマントチェインズ】の空間に【堕つる終末の黒星(ザ・ドゥーム)】を発生させ、引力で加速させたものだ。


 ハーツのすぐ背中側に空間の出口を発生させ、未来を見せる隙なく撃つ。これが解決策だ。


「お前の見てる『未来』は何秒先だ? ちょっと先を見すぎたみたいだな」

次回、393:降り注ぐ絶望 お楽しみに!

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