367:永遠の二番手
決して一番にはなれない。そんな運命を背負っていることに気づいたのはいつだろうか。俺の魔力はどの属性にも強い適性がある。その一方で、その道を究めるものには絶対になれない。
ハーグさんのような炎は扱えず、オラージュさんのような雷を呼び出すこともできない。全ての魔術を等しく高等に扱えながら、決して頂点に立つことはない。
だからこそ、俺は弱いのだ。親衛隊に入ってそれを痛感した。
俺は天才児だった。どの属性の魔術も扱え、五神に愛された子とまで呼ばれた。当然魔術学院も主席で卒業。鳴り物入りで軍に入隊した。
それが、通じればよかったのに。実際親衛隊に入隊してからの俺の戦績は、歴代最低だった。空いた席を50年ぶりに埋める魔術師として担ぎ上げられたときの高揚と、直後の絶望は二度と忘れないだろう。
「熾せ、熾せ、蒼き猛りよ。我の腕に焼滅の力を与えよ」
小さな蒼い炎を背負う。レオさんのようにはいかないが、この肉体は肉弾戦に対応できるだけの剛さと疾さを得た。
「神の一踏み、押し潰せ!」
少女の動きが鈍る。ベルフォードほどの重力ではないが、動きを鈍らせることができれば万々歳だ。
「デクス! シニス!」
カンテラが魔力を吸収する。が、今度は魔術は消えなかった。身体強化も重力も、多少パワーが弱まった程度。
この危険な状態で、わざわざ吸収の手を抜くとは思えない。ということは、もう魔力を吸いきれないのではないか。
ならば、今が攻め時。今度こそ、好機を絶対に逃さない。
「偽・祓雷」
燃やすことで強化した体で、一息で少女の側まで飛ぶ。軽く触れれば、もうこちらの勝ちだ。オラージュさんのような、本物の雷ではない。それでも、触れて放つこれは防御不可能。身体の芯まで焼き尽くしてくれるはずだ。
案の定と言うべきか。少女は悲鳴を上げながら地面に転がる。未だ有効な重力と、このダメージだ。もう動くことはできまい。
「止めだ」
最後の一撃は、そう難しい必要はない。威力を高めた【魔弾】だけで十分だ。
だが、少女の目は死んでいない。むしろ、痺れで引き攣る顔は笑っているようにすら見えた。
「シニス!」
左のカンテラから、黒い炎が吹き出す。魔力障壁を展開するが、間に合わない。防ぎきれなかった炎を正面から受けてしまった。
制服には魔術保護が付与してはあるが、今の一撃はそれを容易に貫通する威力だった。痛み分けどころか、戦況を逆転されてしまったかもしれない。
「た、食べて。シニス」
再び、容赦のない魔力吸収。重力も身体強化も、全て剥ぎ取られるように無くなってしまった。
これで、やっとわかった。魔力はただ吸われるだけのものではなかったのだ。カンテラがただ吸収するだけのものではないように。
飢餓の角灯の真の能力は、吸収した魔力を燃料に、超高温の炎魔術を発動するというものだ。攻防一体となった恐ろしい魔道具ではある。
だが、付け入る隙がないわけではない。どうやら魔力の吸収量には限界があるようだし、炎魔術の発動には少しの時間が要る。この隙を突けば、俺でも決して倒せない敵ではない。
気をつけるべきは右のカンテラ、デクス。あちらはまだ炎を出していない。吸収こそできないが、恐ろしい炎を放つこともできる。
「ほら、餌だ。好きに食え」
魔術にせず、魔力をそのまま周囲に放出する。無駄極まりないが、これも必要な策だ。
「シニス、食べて。……デクス、焼き尽くしなさい」
貪るような吸収を行いながら、炎を放つ。これでは魔力障壁も一瞬で食い尽くされてしまうだろう。
「クソッ!」
全力で走って炎を避けるが、それでももう煤だらけだ。周囲も燃えて、だんだん逃げ場も少なくなっている。長くは戦っていられない。それは敵も同じだろうが。
だからこそだ。勝負が決するのは次の数手。そこに、全力を注ぐ。
次回、368:自壊 お楽しみに!




