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366:暴食のカンテラ

 三勢力がほぼ同時に動き出すことで開戦した、王都争奪戦。数に優れた【蒼銀団(アビス・インディゴ)】と、神代の精鋭揃いの親衛隊。ギルド勢力を加えたとはいえ、特務分室の不利は覆らない。


 だからこそ、特務分室に必要になってくるのは戦略だ。もちろん正面からぶつからなければいけない場面もあるが、敵方に勢力で潰し合いをさせる。


 この戦いのために生み出した分身の一人を、【蒼銀団(アビス・インディゴ)】の雑兵の前に飛び出させる。


 素早く反応し、魔術を撃ち込んでくるが、これは想定済み。そもそも分身体にはエリアスによって多重に障壁を付与してもらったから、そう簡単にはダメージは入らない。


 魔術を躱した分身体は、そのまま一点に向かって逃走する。その先にいるのは親衛隊副長のランカス。ここで衝突を起こして、両勢力の力を削ぐ。


『さっきの女がいないぞ!』


『おい、待て、あいつ……!』


 どうやら彼らも、やっと罠に嵌められたことに気付いたらしい。


『自分から来てくれるとは。死ぬ覚悟はできているんだろうな』


 交戦状態になったことを確認し、分身体を別へと移動させる。まだまだ戦場を操作する必要があるのだから。


◇◇◇


 いきなり飛び出してきた魔術師たち。いささか言動が不自然ではあるが、であったからには叩くまでだ。


「舞え、炎獅子。散らせ、風精」


 左手から炎、右手から風を放ち、眼前になだれ込んできた全員を逃さぬように炎と風の檻で囲う。【ヒート・クローズ】といったか。


 普通の【ヒート・クローズ】でできるのは、囲うところまで。熱が高まり弱るまで閉じ込める魔術だ。しかし、それでは効率が悪い。だから、こうするのだ。


「破ッ!」


 渦巻く風と炎を、わざと衝突させる。そうすれば高まった熱が風によって乱反射し、檻の中は全て灰燼と化す。


「アハハハハハ、だんちょーが言った通りだぁ! 二つの属性の魔術をそこまで正確に操れるなんて、さすがは【天才】だねぇ」


 幼い声が、敵が消えた後の静寂を破る。その声の主は、印象に違わぬ幼い少女。しかし、その身にはあの黒い装束を纏っていた。


「その気配、【棺】だな」


「そのとーーーーり」


 フードを被り、両手にカンテラを持った少女。しかし彼女は【棺】、団長に次ぐ【蒼銀団(アビス・インディゴ)】の最高戦力の一人だ。油断はできない。


 俺の戦績をわかっていて【天才】呼ばわりとは、なかなかに皮肉なヤツだ。勝つつもりでいるのだろう。


「あら……よーーーっと!」


 一瞬のことだった、肉薄してきた少女が、頭に向かってカンテラを振るってくる。


「光壁よ、護れッ!」


 ガキン、と大きな音がしてカンテラが止まる。危なかった。あと少し反応が遅れていれば、重傷は避けられなかっただろう。


「食え、デクス!」


 カンテラが開くと、展開した魔術が分解されて吸い込まれていく。吸い込んだ魔力を利用したのか、カンテラには火が灯っていた。


「飢餓の角灯だな。お前たちの手に渡っていたとは」


 飢餓の角灯。詳しい由来や開発者は不明だが、いつの時代も犯罪者の手に渡っていたという曰く付きの魔道具。聖遺物と呼ぶには歴史が浅いが、現代魔術の産物と呼ぶには古すぎる。


 イッカなどの証言から薄いとはされていたが、魔術破戒のレイが所持していることも疑われていたものだ。今度こそ、回収しなければ。


「氷狼ッ!」


 足元からを放つ。かなり俊敏なようだが、動きさえ止めてしまえばただの的だ。魔力を吸収できるとしても、勝機はある。


「いけ、シニス!」


 投げ出された左のカンテラが、容赦なく魔力を吸収していく。魔力がなければ氷は作ることができない。単純に拘束するのは諦めた方がいいか。


 5本の指の先に、それぞれの属性に染めた魔力を滞留させ、いかなる魔術であろうとすぐに放てるように構える。結局消されてしまっても、足止めすることは可能だ。魔術を放つことにもきっと意味はある。


 いや、そうするしかないのだ。それだけが、俺がここにいられる理由なのだから。

次回、367:永遠の二番手 お楽しみに!

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