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352:親衛隊、相対す

「相変わらずデタラメな迅さだな……!」


 恐ろしいほどの速度で現れたのは、オラージュだった。俺が破壊したマスクも元に戻っていた。


拭雷(フライ)


 オラージュによって放たれた雷を、ハーツは俺の四肢に刺さっていた剣を引き抜き盾とする事でやり過ごす。塵一つ残らないような威力だったが、これすら耐えるというのか、あの剣は。


 とはいえ、俺は自由の身だ。これを好転と捉えていいのかは微妙なところだが、少なくとも拘束は解除することができた。


 しかし今ここで大きく動けば二人の注目を集め、先に俺が消されるだろう。ここは流れ弾が来ないあたりまで退避して大人しくしているとしよう。


「あんたと戦うことになるとは。時間を縛る者と時間に縛られている者、勝敗は明白だと思うけどね」


 ハーツとオラージュの戦いは激しいものだった。両者とも俺相手には本気を出していなかったというのがよくわかる。


 魔力の出力、攻撃の威力、数、全てが俺の時とは段違いだ。同格か、それ以上の相手と戦うときの本気が垣間見える。


「レイくんさぁ、君は自分で手を下さなくていいのかい? 障害は他人が払ってくれればそれでいいのかい?」


「随分と余裕だな……!」


 オラージュの電撃がクリーンヒットする。俺の時よりもさらに高火力の雷だ、かなりのダメージだろうに怯むことなくハーツは続ける。


「あるじゃないか、正直者の青年が王様に認められて悪人を成敗してくれる、みたいな童話。僕は昔からそれが大ッッッッ嫌いだったんだ。自分の目的を成すためなら、それに必要なことは自分で為す、そうじゃないかい?」


 ハーツの言うことは一理ある。つまりは、自分の正義は自分で為せと言いたいのだろう。今の状況で言えばオラージュは今一時的に俺の正義の代行者だ。


 おそらく彼の性格的にオラージュと戦わなければいけない状況そのものより、オラージュを俺が呼び寄せたと言う事実そのものが気に入らないのだろう。それは俺にだってわかる。だが。


「そんなこと、知ったこっちゃねぇ」


 そうだ。これは結局ハーツ自身の美学、わがままに過ぎない。俺は俺らしく、戦場にあるもの、ときには戦場にないものも利用してなんとか勝ち残る。


 俺はハーツの美学には乗れない、乗らない。あくまで奴が持っているのは強者の美学だ。完膚なきまでに勝利し、自身のみの手で勝利を掴み取るその覚悟は相当のものだが、俺までそれに付き合わされる謂れはない。


「それに、【葬光】はいいのか? 俺を殺すための部隊だろう」


 湧き上がった俺の問いに、ハーツは雷を受け流しながら気味悪く笑う。


「僕は炎さ。君を焼き尽くす炎さ。彼らは確かに葬儀屋だけど、死体を葬るのは葬儀屋じゃなく、炎だ。彼らは君を殺すための舞台装置に過ぎないよ」


 自ら葬りに向かってくる炎があるものか。あってたまるか。そう思いつつ、強い信念と徹底っぷりには舌を巻く。彼らが俺でも倒せる強さだったのはそういう理由だったか。


「話は終わりか?」


 そう冷たく言い放ったオラージュの手は、ハーツの首に添えられていた。この構えは、あれが来る。


哀雷(クライ)


 オラージュから、激しい雷撃が迸る。

次回、353:支配 お楽しみに!

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