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342:ギルドの使者

 伸びたバサバサの白い髪の男。俺とは反対側の、右目につけられた眼帯。顔のあちこちにピアスがついている。なにか破滅的なものを感じる印象だった。


 じゃらと鳴る音に釣られて下を見ると、羽織に隠れてしまっているが鎖が見える。


「ちょっとお話ししたくて。ここで暴れようってつもりはないんだ、中に入れてもらえない?」


 にこりと笑って男が言う。差し出されたのは両腕に嵌った手枷。魔術の起動を封じる術式が施されている。ここまで無防備な状態で来られると、逆に警戒してしまう。


「ま、まあ……」


「いいんじゃ……ねぇか……?」


 キャスと顔を見合わせて、困惑しつつも男を通す。アーツがいればよかったのだが、帰ってくるなりカイルを連れて買い物に行ってしまった。ここは俺とキャスで乗り切るしかない。


「どうもどうも、俺はモルガン。一応王都東部ギルドの長をやってるんだ」


 またとんでもない大物が来てしまった。自警団から派生した非公認の暴力組織、ギルド。一応治安維持に一役買っているという理由で見逃されているが、かなりグレーというかほぼアウトな組織だ。


 ここ数百年ギルドの強さを笠に着て悪事を働く者が末端の構成員を中心に少なからず存在しているという。ギルドの立場を低くしているのは明らかにそういう輩だろう。


 そして王都東部ギルドといえばやり方がかなり荒っぽいことで有名だ。その割にはこのモルガンという男は大人しいが。


「君も眼帯してるんだね。俺は怪我が理由なんだけど、君は? カッコいい眼帯だね、俺も買おうかな」


 自己紹介するなり身を乗り出して俺の左目をじろじろ覗いてくる。確かにそこそこ上質なものを作ってもらったが、そんなに羨ましいだろうか。


 確かにモルガンの眼帯は使い捨てのようにも見えるが、俺のように使い物にならなくなった目を隠すのでなければこれでもいい気がする。


「俺はレイ。お前にはそれも似合ってると思うが」


「私はキャス。眼帯はともかく、ギルドのリーダー様が何のご用だい?」


 キャスもだんだん王らしくなってきた。というかこれが本来の姿なのだろう。明るさと親しみやすさに隠していた覇気を、今は惜しげもなく放っている。


 本気で俺の眼帯に興味を持っていたのか、ハッとした顔をしてモルガンは椅子に再び座る。どうにもふわふわした男だ。


「そうそう、そういえばそうだった。単刀直入に言うと、君たちを攻撃するかどうか検討しに来たんだ」


 無害そうな挨拶に対して、かなり恐ろしい内容だ。親衛隊と蒼銀団(アビス・インディゴ)の他にギルドまで敵に抱えたら、俺たちでもかなり厳しくなってくる。


 そもそも特務分室勢力は他勢力に対して優っている部分がほとんどない。現状ですら賛成力の衝突をうまく利用して切り抜けなければいけないのだ。


 圧倒的なパワーを持つ親衛隊。分散させてなお強力に王都全体をカバーする戦力を持つ蒼銀団(アビス・インディゴ)。ここに個々の実力は劣れども物量に秀でるギルドが加われば、さらに状況は厳しくなるだろう。


 今一番怖いのは物量だ。確かに特務分室の面々はアーツをはじめとして親衛隊に匹敵する実力の持ち主はいるが、それでも波のように襲ってくる魔術師を前にすれば、いずれは押しつぶされてしまうだろう。


「検討ってことは、まだ私たちを攻撃するか迷っているという認識でいいかな?」


「うん、いいよ。所属してるかすら微妙な構成員は忘れてるみたいだけど、俺たちの使命はこの国に生きる人を守ることだ。俺たちが戦う相手はあくまで、『悪いヤツ』だけだから、君たちがそういう人なのか見に来たんだ」


 案外、ギルドというのはまだ可能性のある組織なのかもしれない。といっても今は俺たちが彼らに潰されるピンチにいるのだが。


 キャスはずいぶん難しい顔をしている。答えあぐねているのだろうか。確かに俺たちがどういう存在か、難しい部分ではある。


 数秒の沈黙の後、キャスがゆっくりと口を開く。


「悪いヤツさ。私たちは」

次回、343:在るべき正義 お楽しみに!

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