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337:轟雷を穿つ絶対

 彼女に由来する力ならば。俺もあんな風に動けるんじゃないか。そう思った時には、既に身体は動き始めていた。


 明らかにオラージュの視覚も感覚も俺に追いついていない。舞のようで、それでいて一撃必殺の機を生み出す超高速の機動。


 これなら勝てる。今まで気づいていなかっただけなのだ。俺はヴィアージュのようになれる。彼女のように舞い、戦うことができる。


 そして、オラージュの追跡を完全に振り払った。もう彼女は、俺を捉えられていない。


 意識の外から刃を放つ。アーツには殺すなと言われているが、正直どうなるかわからない。今はただ、目の前の強敵に勝てることに高揚していた。


「本当に、嘆かわしい」


 出鱈目だ。彼女はもう俺を捉えられてはいなかった。俺がいつどこから攻撃してくるかなんてわからなかった。


 しかし、事実として俺の刀はまたしても指2本に挟まれて止められてしまっていた。


「まだわかっていないのか、自分の弱さが」


 たった指2本で刀ごと振り回され、壁に叩きつけられる。そんなに大きな衝撃ではなかったし身体は動かすことができたが、動く気がしなかった。


「お前は刃物を手にして喜んでいる子供と同じだ。英雄たりうる力を持っていながら、お前自身があまりにも弱すぎる」


 俺が、弱い。この俺が、弱い。アーツにも、グラシールにも、ヴィアージュにも認めてもらった俺が、弱い。


 そんなはずはない。確かに俺が授かった力は強い。だが俺にだって必死で生きてきた十数年間があるのだ。神代の力には劣るかもしれないが、それでも俺は必死で生きる道を切り開いてきたのだ。


「断言しよう、お前が生きてこられたのは【破幻の剣】の力があったからだ。加護にかまけ力に溺れた今のお前には、何も倒せない。ましてや何も守ることなんてできないだろうな」


 刀が掌から転げ落ちる。ここまで否定されたのは初めてだった。魔力喰いの力に気づいてからというもの、魔力を持たないことを忌々しく思いながら、同時に他者と違う力を持つことをどこか自慢に思っていたのは否定できない。


 だって、誰だってそうじゃないのか。オラージュがこんなことを言えるのだって、彼女が無比の強さを誇るからだ。


 誰だって特別でいたい。特別な力が欲しい。最初から持っていたのだ、ちゃんと手に入れたのだ。元は他人の力でも、俺のモノになったのならばそれは俺の強さじゃないのか。


「じゃあお前は、俺にどう戦えって言うんだ」


 そう問いかけた瞬間、気づいてしまった。俺は驚くほどに空虚だった。俺から借り物の力を取ったら、何も残らない。


 目の前の圧倒的な強さを貫くことができる絶対的な強さは、俺の中にあって俺のものではない。それに気づけていなかった。


 俺はあくまで俺だ。力を借りなくては生きていけないただのレイだ。手足のように力を使ううちに、俺が俺であることを忘れてしまっていた。


 今必要なことは、何か。それは自尊心を満たすための戦いではない。今俺に託されているのは、俺を信じてくれた仲間の命だ。今すべきなのは、目の前の敵を退けること。


 迷いは残っている。しかし、それは二の次だ。俺は俺のやり方で、オラージュを倒す。

次回、338:悟り お楽しみに!

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