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32:堅牢なる城塞都市

 無数に降り注ぐ魔術の雨を、俺を盾にして抜ける。敵の数はざっと40くらいだ。正門はどう考えても厚い木の扉、破壊するにしろ開けるにしろ手間がかかりそうだ。


再度魔術の詠唱をしているところに割り込み手前の二人を一度に殺す。その混乱で兵士たちは詠唱を破棄した。その隙を突いてもう3人、距離を取られてしまったためにそれ以上は不可能だったが、それでももう5人だ。隣でカイルが殺した分も含めると12人、損害なしで4分の1殺した計算になる。


飛び退る兵士をさらにカイルが銃撃し、どんどん死体の数を増やしていく。これはもしかすると全員片付けてから中に入った方がいいかもしれない。こそこそと増援を求めようとしている兵士の腕を懐の拳銃で撃つと、一気に距離を詰める。


俺が切り込み、カイルが討ち損じに止めを刺す。カイルは魔術のおかげで絶対に狙いは外さない。俺も安心して背中を任せられる。できれば魔術の使用は控えたいところだが、この程度はやむを得ないだろう。


偶の反撃も全て俺が相殺し、どうにか無傷で正門前の敵を殲滅することに成功する。息がある者もいるみたいだが、放ってそのまま正門に手をかける。試しに力を入れて押してみるがびくともしない。どう考えてもこれは押して開けるタイプなわけだし、もしかしたら閂でもかかっているのかもしれない。


「どうするっすか? 急がないときっと増援が来ちゃうっすよ!」


 塀はかなりの高さで、表面もつるつるだから登っての侵入は無理、地面を掘っている暇などないし、どうにかして扉を開けたい。できるだけ温存しておきたかったが出し惜しみをしていい状況ではない。


「吹き飛べッ!」


 身体補強フィジカル・シフトを限界まで発動して掌底を扉に叩き込む。一撃では足りない。閂も、まだヒビが入ったのみだろう。2度、3度と拳を打ち付けてゆく。この音だ、どうせ気付かれてしまっているのだろうし、それならば早く終わらせたい。7回目でようやくゆっくりと扉が倒れる。


 中に入れたはいいが、今のでそこそこに体力を使ってしまった。追手が来ないうちにとりあえず路地裏に逃げ込む。念のためではあるがほんの周辺だけカイルに索敵してもらう。今のところ付近には誰もいないようだ。


 ファルス皇国の城塞都市は他の国のそれと比べても群を抜いて堅牢だと有名だ。といっても今の姿になってから実際に戦闘に使われたのは今回が初めてだろうが。その守りを確かなものにするため、兵士たちはそれぞれの都市に配属されたら一生同じ所属で兵役を終えることになる。防衛のため迷路のように入り組んだ道やそこかしこに配置された仕掛けの機能と位置を記憶しなければならないからだ。


 その道は数年で覚えられるようなものではなく、何年かに一回はどこかの都市で警邏中に遭難する新人がいるらしい。こちらにはカイルの空間把握があるが、それを以てしてもこの迷宮は攻略が難しい。平面の迷路ならば簡単に図に起こして中心部へと向かう経路を見つけられるが、残念ながらこの迷路は立体だ。ほぼ中心に位置する司令部に向かい、だんだん高くなっており、立体交差や二重の橋など、その標高差まで活かしているからこそ世界一とまでの評価を受けているのだ。


「思った以上に訳が分からないっす。ゴールから辿るのもいいっすけど魔力が尽きちゃいそうっす」


 空間把握魔術を究める都合上、カイルは数学や物理のような事柄に関しては学者並みの知識と処理能力がある。だからこそ弾道予測などの唯一性のある魔術を担っているわけだが。一瞬把握した全体像を思い出して道を探しているのだろう。


「なあ、警備の多いところを辿って行ったら司令部に着く、なんてことはさすがにないか?」


 万が一司令部までの道を割り出されたときのため、そこだけ警備を固めている可能性は少なくはないはずだ。もしそうだとすれば戦闘自体は増えてしまうが確実だ。俺も閉所戦闘ならば相手の数が多くてもそれなりに対応する自信はある。


「どこも巡回している兵士の数は同じように見えるっす。何か法則性でもあれば……」


 兵士は巡回を続けているようだから、ここに留まっていたらいずれ見つかってしまう。加えてある程度奥まで行かないとまともな建物もないために隠れることもできない。今更になって魔導機動分隊と思しき5人の兵士が正門のところに到着するのが見えた。


「もうちょっと奥に行け。内部から来た分隊だ」


 カイルを少し路地の奥に押しやる。どうやら壊れた扉と被害の簡単な調査に来たようだ。息の無い兵士の死体を脇に片付けて、生存者の治癒に当たっている。やはり扉を壊したときの轟音が彼らの到着を速めてしまったのかもしれない。


 来られてしまったからにはもう立ち去るまでここで待つしかない。彼らも素人ではないから今度こそ尻尾を掴まれてしまうだろう。しかしここで、ふと思いつくことがあった。彼らはおそらく司令部から来ているはずだ。そして司令部に帰っていくのだろう。ということは、彼らについて行けば司令部に辿り着けるのではないだろうか。


「カイル、魔術の範囲を狭めていい。あいつらの後を追うぞ」


「なるほどっす。あの分隊が動き始める前に見回りが来ないといいっすけど」


 カイルの索敵によれば見回りはしばらく来ないようだが、正門の隊がいつ去るか分からない。近づいてきたら先回りして暗殺しなくてはならないだろう。だが気付かれずに暗殺するのはどうにもかなり困難だろう。兵士たちは最低限の治癒を終え、正門を魔術である程度修復すると生き残りを支えるようにして帰っていく。


 こっそり追いかけているのを気付かれないように、空間把握魔術で位置を割り出しつつついていく。幸いこの城塞都市にはかなり角が多いために身を隠しやすく、それほど離れなくてもいいためカイルの魔力消費も少なくて済む。以前アーツに貸してもらった本には角を多くすることで攻め方の勢いを殺したりかぎ状の通路にすることで行き止まりだと錯覚させたりする効果があるとか書いてあった気がする。確かにカイルがいなければかなり慎重に進まなければならなかっただろう。


 しばらく歩くとかなり内側に入れているのが分かる。この入り組んだ道を迷いなく進んでいくあたり、さすがなものだと感心する。城塞都市はそれぞれ構造が違い、迷わず歩けるのは基本的に所属している兵士のみだという。よくも各地にここまでの迷路を設置したものだ。俺たちは少数で侵入しているがために対軍迎撃用の魔術罠や構造が活きないが、この堅牢さは確かに世界有数だろう。


 足音を殺して歩く中、通話宝石が鳴る。音もあまり響いていないし十分距離を保っていたために聞かれてはいないだろうが、かなり肝を冷やした。


 アーツがこんな状況で連絡を寄越してくるということは、何か大切なことなのだろう。カイルが小声で応対する。その間も追跡を止めずそのまま進んでいるのだから大したものだ。先行している分隊もどんどん司令部に近づいており、これならば順調に司令部に侵入できそうだ。


「アーツさんからの連絡っすけど、北端の砦を攻略後、再度中隊単位での隠密進軍をしたところ、狙ったような待ち伏せで複数撃破されたらしいっす」


 嫌な予想が当たってしまった。兵力を分断して進軍するのは利点も多いが、基本敵に遭遇してしまうと押し負ける。全兵力をバラバラに切り崩しているわけだから当然だが。しかし狙ったような待ち伏せというのが引っかかる。確かにヤマを張っていくつか部隊を配置するのは容易だろうが、わざわざ城塞都市から出てまで攻撃する意味がない。それに複数撃破されたということは予想がかなりの確率で的中し、その上で撃破しているのだ。もしかしたら俺たちがファルス皇国に進攻していること自体が、ファルスの思う壺なのではないか。


「それで、農耕都市の占拠は問題ないのか?」


「農耕都市自体は占領できたみたいっす。でもそれに対する損害があまりにも……」


 はっと顔を上げてカイルが立ち止まる。カイルが腰の銃に手を伸ばしたのを見て、俺も刀に手をかける。静寂の中、緊張感が麻酔のように俺の身体を痺れさせていった。


「僕たちも嵌められたみたいっす。この先は正真正銘の行き止まり、そして後方からは包帯を巻いた女、おそらくレイさんの言っていたハイネが向かってきているっす」


「カイル、お前は前方、俺は後方だ。自分の相手を片付けるまでは絶対にこちらに注意を向けるなよ」


 そう言って振り返る。カイルとハイネでは相性が最悪だ。途中で阻まれたとはいえ、一度はハイネを追い詰めたのだ、最悪痛み分けくらいに持っていく自信はある。


「久し振りねぇ、お兄さん」


少々お待たせいたしました2話同時投稿その1です。

対ファルス皇国戦争が長引き過ぎて間延びしないようにいい方策を思いつきました。


それから更新ができなそうなときは軽く近況報告でなにかお話することにしました。そんな暇あるなら本編進めろって話ですが、ご理解ください。


今回もありがとうございました。次回、ハイネさんがあまり間を空けずに再登場です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 上手く司令部までついていけるかと思ったのに……残念! この辺りは戦争というか作戦行動、読み間違いとか嵌められたとか、そういう面白さがありますね(*'ω'*) でも、ハイネさんとはできればも…
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