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29:聖遺物を求めて1

 とりあえずコートの中から小さな薬瓶を取り出して無理矢理に中身を飲ませる。遅効性、かつ効果の弱い筋弛緩薬だ。10分くらいすれば身体が多少動かしにくくなるだろう。指を兵士の爪にかける。


「他に協力者は?」


「いない」


 めり、と音がして爪が一枚剥がれる。鈍い呻き声。後ろでは驚きと恐れの混じった声が聞こえてくる。俺をまっすぐに睨み返す瞳はまだ生きている。次の指に手をかけ、にっこり笑ってやる。


「嘘言う度に一枚ずつな。爪がなくなったら、その次はどうする?」


 カイルと他の兵士には嗜虐体質じゃないかと疑われ引かれている頃だろうがこうでもしなければ忠誠心の強い愛国者は何も吐かない。兵士が次から次へと部屋を出ていく中、爪を剥ぎ、歯を抜き、熱した鏝で腕を焼き、全身を薄く切り刻み、熱湯を掛け、何本も骨を折った。


 まだ感謝してほしい。俺はそこまで他人の心を推し量ったりするのが得意ではないし、きちんと正しい情報を提供してもらいたいゆえに痛みを伴う拷問しかしていない。もちろん痛すぎて頭がおかしくなることもあるだろうが、その場合はどうしようもない。


「めんどくせぇからそろそろ吐けよ。そんな死にそうな顔して、まだ言えないほど国が好きかよ」


兵士は何も言わない。いつの間にか5人いた兵士は1人を残して皆いなくなってしまった。戦う者は死体を見ること自体は慣れているが、普通の戦闘で殺された人間と凄惨に傷つけられた人間ではそのおぞましさが一回りも二回りも違う。その点最後まで残った兵士はかなりの胆力だ。カイルでさえ冷や汗を掻いているのに、眉根すら動かさない。俺と似たような出身なのか、ただ心が死んでいるのか、それは判らないが大したものだ。


「なあお前、倉庫に硫酸か何かがないか見てきてくれないか?」


「え……あ、はい。わかりました」


 少し戸惑ったようだが、頷いて出ていく。どれだけ痛覚が残っているかはわからないが、効かないことはないだろう。そしてもう一つの可能性もこれで潰しが効く。


「カイル、さっき出ていった兵士、まだドアの近くにいるか?」


「いないっす。倉庫まで走って向かってるっすよ。でも急いだほうがいいっすね」


 カイルも俺と同じことを考えていたようだ。もう椅子に座っていることすらままならず、ぐったりと床に倒れ伏した兵士の髪を掴んで持ち上げる。


「今なら言えるか。他のスパイの正体を」


 唇が僅かに震える。死んだ瞳に僅かばかりの光が灯り、咳とともに小さく言葉が吐き出される。


「さっきの男が、もう一人のスパイだ。俺の知る限り他にはいない。これでいいか」


 俺は軽く頷くと持ち上げていた頭をゆっくり床に置きなおしてやる。これ以上はこいつから有益な情報を得られなそうにない。どうやらさっきの男が監視役的立場のようだし、そいつに聞いた方が話は早そうだ。


「ありました、硫酸」


 タイミングよくスパイその2が帰ってくる。牢に入り、硫酸を手渡された次の瞬間、それを頭から掛ける。全身に硫酸を浴びた男は悲鳴を上げてのたうち回る。頭部に瓶を投げつけ、数発蹴りを入れて意識を飛ばす。解呪魔術の付呪された鎖で縛り、床に投げる。服を探り通話宝石を回収してから部屋を出る。王都には専門の尋問官の派遣を要請したし、明日の朝には俺なしで拷問が再開できるだろう。


 食堂に戻るとリリィが律儀に待っていてくれた。拷問の時に付いた血は……まあ戦闘時の出血と混じって誤魔化せるだろう。これだけ派手にやられたように見えて、実際怪我したのは100%自分のせいなのだから申し訳ない。


 俺たちは指揮官の計らいでかなりいいメニューにしてもらっているようで、炊事兵の渾身の一食とも言えそうな豪華な夕食だった。旨いものを食べられるのは嬉しいが、これはこれで目立ちそうだ。聞いてみると、俺たちは王国軍の特殊部隊という設定で通っているらしい。まあ王家直属の非合法組織とは口が裂けても言えないか。


「しかしまあ、よくも王家も俺たちを戦場に出したよな。勘のいい奴は気付きそうなものだがな」


「アーツに聞いたけど、いま王家と親衛隊は仲が悪いらしい。だから私たちを寄越したのかもね」


 なるほど、前団長殺害を指示したのも国王らしいし、親衛隊は親衛隊で革命の時に俺たちの邪魔をして解決を妨げている。結果的に西区解放を宣言することになったのは親衛隊だが、王家側には情報は行っているだろう。これ以上親衛隊に仕事を与えたくなくて、そして自分の管理下に置いておきたくて俺たちを使ったのか。


 前々から少し思っていたが、今の国王、ちょっと危なっかしい奴なのかもしれない。アーツも初めて会った時に親衛隊を減らすのは愚策だとかそんなことを言っていたか。まさか国王は……。いや、考え過ぎか。


「レイ、あんまり難しいこと考えながらごはん食べると不味くなるよ」


 リリィにジト目で見られてしまう。その通りだ。考えにばかり頭が行って食べ物のことなどちっとも考えてはいなかった。


 とりあえず諸々のことは後に回そうとリリィとカイルとくだらない話をして食事を終え、床に就く。疲れもあって一瞬で眠れてしまった。


 翌朝、習慣になってしまったのかここまで疲れていても7時30分に目が覚める。買い込んだレモネードで少しでも溜まった疲れを誤魔化そうとする。甘い。確かにこっちの方が飲みやすいし美味しいな。あの強烈な酸味も懐かしくなりそうだが。


 朝食を摂ってしばらくすると王都から尋問官がやってくる。そのせいもあり今日は丸一日休んでいいみたいだ。兵士は一度街まで戻って買い物を楽しんでいる者も多いようだが、さすがにそんな元気は俺には残っていない。リリィへの教授を提案すると快く応じてくれたので、部屋で読み書きの勉強をすることにした。


 漠然と俺が教えてやると言ったはいいが、何から教えていいのかわからない。とりあえず文字を教え、アイラ・エルマ叙事詩を使って読みから覚えさせることにした。


「えーと、その男は……とても強い炎、を使いました。これが彼の……」


「『魔法』だ。この話にはよく出てくる」


「うん。これが彼の魔法なのですか。彼女は聞きました」


 逐一わからない単語を教えつつ音読させているが、リリィの記憶力は常人のそれではない。既出の単語や生活の中で記号として覚えていたごく日常的な単語をおそらく全て記憶している。まだたどたどしさはあるが、かなりスムーズに読むことができるようになってきた。


 結局一時間続けたところで疲れてしまったが、13ページも読むことができた。もしかするとしばらく経ったらリリィの方が俺より難しい本を読んでいるなんて状況になりかねないな、これは。机に本を置いて休憩していると、扉がノックされる。


「失礼します、お二人にお客様です」


 扉を開けると警備兵が敬礼をする。その客というのは応接室にいるようで、先導されてついていくが、誰とも知れない客を通してしまっていいのだろうか。警備兵が扉を開ける。


「やあ二人とも。昨日は大活躍だったようだね」


 王都で一人ぐうたらしているはずのアーツが、ソファに座っていた。ティーカップもお菓子が入っていたであろう皿も空だ。警備兵におかわりまで要求してるし。


「で、なんであんたはこんなところにいるんだよ。俺たちに任せて休んでいるとか言ってなかったか?」


「いやぁ、当初はそのつもりだったよ。でも【奉神の御剣】が前線にまで持ち出されてると聞いたらさすがに動かざるを得ないさ」


 あの強力な聖遺物相手では、さすがに俺たちも総力を以て当たらないといけないって訳か。アーツにそこまで言わせるということはあれはやはり、かなりの曲者なのだ。


「俺、あれが欲しいんだよね」


「「は?」」


 開いた口が塞がらなかった。少しでも感心してしまった俺たちが馬鹿みたいだ。戦っていても気が付かなかったが、アーツ曰く、【奉神の御剣】というのは本体も全て魔力でできているらしく、厳密にいえば金属ではないらしい。金属と同程度の硬度と強度を持たせるために密度は信じられないほど高くなっており、あれを解体すれば失われた根幹魔力を1割ほどであるが取り戻せるとか。


 これからファルス皇国へ攻め込むにあたり、戦闘のどさくさに紛れて聖遺物の強奪を狙うらしい。戦力を削いでくれるのは大変にありがたいし、増援としてではないが来てくれて助かった。


 追加で持ってきてもらった紅茶とクッキーをちびちび口に入れていると、しばらくして扉がノックされる。


「報告いたします、地下牢からスパイの取り調べが終了したとの連絡がありました。調書にまとめてありますのでご覧ください」


 さすがはプロだ、仕事が早い。


特に話に進展はありませんでしたすみません……!

どうでもいいんですが後書きの一部を主人公の口調っぽく書くみたいなのやってみたいなと思ったんですけど難しいですね。

ちょっと立て込んでいるので3日4日お待ちください。

ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 拷問シーンはちょっと苦手なので、身構えましたが、さらさらーっと読み進めてしまいました><; 国王とその周囲の勢力(団体?)が親衛隊も特務分室もそれぞれの思惑があるようで、これからどうなって…
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