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301:生きる術

「しかし、これからどうやって生活する気だい? ウチは人を雇う余裕なんてないよ」


 それは俺も懸念していることだが、少なくともここで働く気はない。なにしろここにいてはアーツに行動が筒抜けだ。彼らの事を気にしないためにも、彼らに気にされないためにも俺はどこか別の場所に行くべきだ。


 思い切ってガーブルグ帝国にでも行こうか。しっかりと文面で条約が結ばれたことで、今では壊滅しかけたファルス皇国よりも行き来が盛んになっている。


 向こうならばさすがに特務分室の目も届かないだろうし、一応伝手もある。申し訳ないがアール商会の人脈で人手の足りていない店でも探してもらうしかない。


 しかし、俺でも働けるような職業はあるだろうか。眼帯のせいでもう接客業などできないし、殺し以外の技術もない。


 これが退役軍人などだったら古くなった備品や服、装備なんかを販売することもできるだろうに。俺も一応元軍人か。そんな人脈がないだけで。


 こんなことになるなら、もう少し勉強しておけばよかった。まだ学があれば戦闘以外にも役に立てたことがあったかもしれないのに。


 といってもアーツがいる時点で特務分室の頭脳は完成しているようなものか。勉強するしない以前にまともに学校すら行っていない俺では差がありすぎる。


「とりあえず、半年は豪遊しても大丈夫なくらいの貯蓄はある。荷物が届き次第出ていくから安心してくれ」


 金を払っているとはいえ、ここに留まっていては迷惑だろう。俺もさすがにここにいるのは避けたいし。


「うーん、むしろいてくれたほうが財政的には助かるんだけどねぇ。なにしろこんなところじゃ患者が来なくって」


 アルマが困ったような顔をして言うが、正直当然のことだろう。なぜこんなところで商売をしようと思ったのか。


 しかし本当に大丈夫なのかここは。アーツの元部下という理由でかなり安い滞在費にしてもらっているが、それすら助けになるというのは普段どういう金の回り方をしているのだろうか。


 しかし、まずは拠点を決めなくては。ここではないどこかへ。とりあえず王都にどこか部屋を借りるとして、誰に紹介してもらうのがいいだろうか。


 俺の知り合いのうち、一番顔の広そうな人。そしてあまり特務分室とつながりのないところがいい。ベルナールのところのおばばなんていいんじゃないかと思ったが、そういえば俺が彼女と会った後、時間を巻き戻されてしまっている。面識はないのと同然だ。カイルとのつながりも強いし。


 あと俺が頼れるとすれば、ジェイムくらいか。もう仕事はしていないだろうから、隠れ家にいるのだろう。会いに行ってみるとするか。

次回、302:戦場に立たない殺し屋 お楽しみに!

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