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299:白光の義眼

 ルクセンに詳しく傷を見てもらったところ、目は完全に破壊されていて修復はほぼ不可能とのことだった。


 英雄化の能力を信じればどうにかなるやもしれないと思ったが、あれで目が完全に治るとは思えない。


 もし身体補強フィジカル・シフトを恒常的に発動しているのならば、それが記憶に強く刻まれたものであると治すことができない。ジェイムから受けた傷などがいい例だ。


 それに、俺もこれくらいの代償を背負うべきなのだ。ミュラが命を投げうったのに俺だけがのうのうと生き続けているなんておかしいではないか。


 昨日がいつ戻るかわからない目など持っていたって仕方がない。むしろ後腐れなく捨ててしまえ。


「でも、目を取るんだと義眼がないと。うちにあったかね」


 アルマが倉庫らしき部屋に向かう。なにしろあそこは一段と薬品臭がすごい。オルの砦での防衛線の後に似た匂いがする。


 しばらくしてアルマが戻ってきたが、浮かない顔をしている。義眼は見つからなかったのか。


「魔眼の類はいくつかあったんだけどねぇ。使えないうえに高いものがあってももったいないしね」


 魔眼か。そういえばあれらは魔力を神経代わりにして接続すれば力が発揮できるらしいから、目を失った魔術師には需要があるのだろう。俺の場合魔眼など触れた時点でただの眼球に成り下がるが。


 正直魔眼でもいいが、折角の商品を無駄遣いするのも少し申し訳ない。なにか義眼として使えるようなものを買ってくればいいだろうか。


「宝石とか持ってない? もし大きめのがあれば俺が加工するんだけど」


 宝石なんてもの、買ったことがない。特に神代の遺跡を探索したわけでもないからそこから発掘したものもないし、そもそも俺が持っているものと言えば……


 あった。宝石が。それも、純白の輝きを放つ美しい宝石だ。友の最期に受け取った、命の結晶ともいえる宝石だ。


 これを、俺の義眼として使っていいものだろうか。これを持っていてほしいという約束を果たすことはできるが、それは赦されることなのか。


「どうしたよ。何かあるなら見せておくれよ」


 もうここまで反応してしまっては誤魔化しようがない。正直にミュラから貰った宝石をルクセンに見せる。


「いいものを持っているじゃないか。これなら多分君の眼にぴったりだ」


 俺もそう思う。これは俺の眼にぴったり収まるだろう。だからこそ、どこか申し訳ないのだ。


「これは、俺のために死んだ友達の形見なんだ。俺なんかの義眼に使っていいものなのか?」


 正直に訊ねてみる。本当に、俺はこれでいいのかどうか。こんなことをしてもいいのかどうか。


「はは、そりゃ良いに決まってるじゃあないか。君のために遺したものを、君が使わなくてどうするさ」


 静かに訊く俺のことを、アルマは軽快に笑い飛ばした。まるで単純なことすら知らないものを笑うかのように。


「君にそれを遺したのは、君に生きて欲しかったからだ。大事な友人に永らえてほしいからだ。その気持ちを無下にしちゃダメさ」


 本当に、彼女はそんなことを想っていてくれていたのだろうか。正直未だに俺はそう思うことができない。


 しかし、決意はできた。俺はこの宝石を使う。これを俺の眼として生きる。それだけが、彼女が生きた証を残す術だと信じて。

次回、300:生存の決意 お楽しみに!

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