表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
299/758

296:別れ

 教皇の処刑が終わり、この国に俺達の用はなくなった。事前に準備しておいた馬車に乗ってアイラに向かう。みんなはオルで少し遊んで行くと言っていたが、俺はアーツにと一緒に王都に行くことにした。


「挨拶はしたくない、か。君らしいね」


 何を以て俺らしいのかはよくわからないが、まあ殺し屋っぽさがあるのは分かる。殺し屋に分かれの挨拶など必要ない。刹那に生きるだなんて言うとかっこよく聞こえるが、要は長く一緒にいられないだけだ。


 流れていく景色を眺めながら、彼らと過ごした日々を想う。厳しい戦いが続いたが、それ以上に楽しいこともたくさんあった。


 国王暗殺から始まった俺の特務分室での戦い。まさかあれが試験だとは思っていなかった。


 王都を揺るがすテロを止め、ファルス皇国を破りニクスロット王国を救った。ガーブルグ帝国で死闘を演じ、再びのファルス皇国で旧き時代の終わりを見届けた。


 長い休暇もあったし暇な時間も長かったが、戦い続きだった気がする。俺が戦ったことばかり覚えているからだろうか。


 いや、命を懸けたからこそ記憶に残っているのだ。命を棄てる覚悟で臨んだからこそそこに価値を見出せるのだ。


 それも、これでおしまいだ。俺だってこの生活を手放したくなかったが、もう戦いたくても戦えないのだ。


 アーツは珍しく優しいことを言ってくれたが、それには応えられそうにない。もう一度俺が立ち上がれる気がしないのだ。


 俺は、一生刀を握れずに生きていく。それなのにアーツの言葉にすがって武器を捨てられない自分がとても弱く思えた。


 超特急で飛ばしたため、二度の乗り換えを経てすぐに王都に辿り着いた。とりあえず医者のところへ行くことを話すと、荷物はそこに送ってもらえることになった。


「じゃあ、世話になったな」


「そうだね。いってらっしゃい」


 どうにも母親っぽいアーツに見送られて、特務分室を後にする。出て行ってしまえば、もう戻る気はしなかった。何をしようともう今更だ。すべてが手遅れなのだから。


 訣別の刻だ。これから俺はただ一人の市民となる。望んだ形ではなかったが、やっと普通に生きることができるのだ。




 この時の俺にはまだ、アイラ王国に訪れる大きな嵐に気付くことができていなかった。

次回から、新章EX:王国変革前夜 へ突入します! お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ