276:嵐の踏破2
「痛ってぇ……」
「なぁお前、こんな話聞いてないぜ」
俺がヴィアージュの部屋に行っている少しの間に、状況は大きく変わっていた。魔力だけでなく、雷までもが大気中に充満していた。
ただいるだけで肌がビリビリと痺れる。グラシールはすぐに魔力を纏って雷を弾いていた。正直うらやましい。
「もうレイさん、どこ行ってたんすか? ……ってあなたはグラシールさん!?」
肌をさすりながらカイルがやってくる。カイルは魔力が他より乏しいから、魔力を纏うことができないのか。狙撃に使う分の魔力が足りなくなってしまう。
それを可哀想に思ったのか、グラシールがカイルに魔力を纏わせる。俺は魔力を纏ってもすぐそれを喰らってしまうから仕方ないか。
「そんじゃまあ、造るか」
氷を生成し橋のようにしてから、グラシールは皇都の少し先の平野に降りていく。あそこに箱舟を建造するのか。
部屋で見たときと同じく、異様な大きさの箱舟が造られていく。教皇庁の頂上から見ていたのに、いつの間にか見上げる形になっていた。
これではまるで船ではなく城だ。この世界のどこにも、この箱舟を超える大きさの城は存在しないが。
これが魔法だということがまだ信じられない。聖遺物という形で残っているならまだわかるのだ。しかし、これを生成できる魔力と技術があるということが信じがたい。
さすがに、水の神直属なだけある。実力はやはり本物だ。グラシールの手助けがあって本当に良かった。
「レイと聖遺物持ち、それからカイルは乗れ。あとは教皇庁で待機してろ」
グラシールの指示で俺とカイルとミュラが【踏破の箱舟】に乗り込み、他は教皇庁で陣を張ることになった。
皇都全域をアーツの禁呪を利用した固定型結界で保護し、それ以外はリリィの魔力制御にあたる。カイルは主砲を任されたらしい。
「お前ら二人は甲板だ。死ぬなよ」
言われた通り二人で甲板に立つが、ミュラまでこんな危険な場所にいる必要があるのだろうか。
「なあ、お前の聖遺物って結局何なんだよ」
「そうですね。……わかりました、お教えしましょう」
撃鉄を起こすように、周囲の空気がかちりと変わる。全てが平坦になったように、風も揺らぎも全くない空間へと変貌する。
ただただ静かに、少しの変化もなくただそれだけが生まれている。円形の分厚い板のようなもの。骨格に肉が付くようにそれが組み立てられていく。いや、装甲を貼り付けるという方が正しいか。
「今こそ力をお見せしましょう。これが私の聖遺物────」
教皇の寿命まで─────あと138時間
次回、277:均衡の盾 お楽しみに!




